A la twitter

某月某日
電車に乗っていたら、どこからともなく石灰岩の匂いが漂ってきた。はっとして目を上げると、そこにバルダイテスそっくりの顔をした男が立っていた。

某月某日
ヤフオクで売れた商品を梱包しながらため息をつく。「はあ、買って行くの男ばっかりやな……」

某月某日
「このカリメネは目もよく保存されており……」
「いやいや、それ目じゃないでしょ、頭のコブでしょ……」

某月某日
「おれはダドリーバグ、シルル紀三葉虫だぞ」そう言って彼は胸をそらした。しかしその姿はどうみてもウミサソリであった。

某月某日
新しい復元図が発表されるたびにつまらなくなっていくハルキゲニア。しかしそれとは関係なく、化石としてのハルキゲニアはつねにすでに魅力的だ。イコンに対するイデアの勝利がそこにはある。

ハルキゲニアの初期の復元。やっぱりハルキゲニアはこうじゃないとね。


某月某日
ハミープレップ(笑)

ファコピディナ・ミシェリ・ミシェリ

本種はもともとダルマニテス・ミシェリという名前だったが、いつのまにかアカステ科に編入されて属名もファコピディナに改められた。ファコピディナの模式種(Phacopidina harnagensis)は英国産らしく、チェコでも似たようなのが出るらしい。しかしこんにち一般にファコピディナの名で呼ばれるものは、ポルトガル、スペイン、フランスで出るものにほぼ限定されるようだ。そのうちとくにフランスで出るものに対して、ミシェリを一個追加して、ファコピディナ・ミシェリ・ミシェリとしているのではないか。

今回手に入れたのはネガポジもので、ご覧のとおりポジ側には母岩がほとんど残っていない。本体の長さは3㎝ほどで、そう小さいわけではないが、母岩なしではいかにも頼りなく感じられる。


Phacopidina micheli micheli


しかしこれを逆手にとって(?)、ハイポストマまで剖出したのはプレパレーターの手柄だろう。というのも、本種のハイポストマつきの標本などそうあるものではないからだ。



ふだんはネガの上にポジを置いておけば、いちおう格好はつく。やはりこういうのがいちばん化石標本らしくてよいですね。



この標本の個眼は、ふつうとは逆にすべて凹型に保存されている。どうしてなのか購入元に訊いてみたところ、ブルターニュ三葉虫はすべて内型(moule interne)だから、という答えだった。しかし、内型だからといって眼が凹凸逆になるとは思えない。もっとほかに原因があるはずだ。うちにある標本では、ボヘミアのダルマニティナがやはりこういうタイプの凹んだ複眼をもっている。



さて今回の標本、母岩上に点々と金粉のようなものが散らばっている。これは前のオギギヌス(&ノビリアサフス)のものもそうだった。おそらく黄鉄鉱の粒だと思われる。それだけの話だが、他産地ではあまり目にしないので、いちおう記しておきます。


     * * *


本文とは関係ないけれども、この前買ったエッカパラドキシデスとオギギヌス(&ノビリアサフス)を化石棚に置いたところ。フランス産の三葉虫は、こういう渋い標本のあいだに紛れ込ませたほうがよく映えるようだ。


エッカパラドキシデス・プシルス

──あなたはレドリキア派? それともオレネルス派?
──パラドキシデス派です。

分る人にしか分らないボケだが、こういう人は意外に多そうな気がする。レドリキアにもオレネルスにもあまり関心がなくて、パラドキシデスだけが好きっていうのがね。

さて、今回手に入れたのはチェコのエッカパラドキシデス。これが前から欲しかったんですよ。でもなかなかこれといった標本が見つからない。今回のもそれほど保存がいいわけではないが、全体の感じがなんとなく毅然としていてカッコいいのが気に入った。値段も安かったしね。


Eccaparadoxides pusillus (L.38mm)


チェコカンブリア紀三葉虫は、外殻が溶けてしまって内型(internal mold)だけが残っているのが少なくない。しかし今回のものは、黄土色の外殻がかなり(九割くらい?)残っていて、ちょっと得をしたような気分だ。フリル部分に通常見られるテラスラインは、内型に残された重複板の印象なので、今回のように外殻が保存されている場合には見られない。

バランド先生によれば、本種には縦長型と幅広型があるらしい。私の買ったのは縦長型のようだが、それは右側の部分が失われている(もしくは母岩中に埋っている?)ためにそう見えるだけかもしれない。先生の持論では、同一種における縦長型はオス、幅広型はメスとのことだが、これは今日では否定されている。たんに地中の圧力で縦に伸びたり横に広がったりしただけのものも多いだろうからだ。

エッカパラドキシデスは前にスペイン産のを買ったことがある。そのときは種名がわからず、「~の一種」としておいたが、その後気をつけていると、どうも Eccaparadoxides pradoanus である可能性が高い。これは ecca- が取れてたんに Paradoxides pradoanus と呼ばれることもある。



左のものがそのスペイン産だが、こうしてふたつ並べてみると、どうもあまり似ていない。レヴィ=セッティの本を見ると、ひとくちにエッカパラドキシデスといってもいろんな種類があるようだ。


チェコの博物館にあるタイプ標本


     * * *


今回本種を手に入れたことで、私のボヘミア三葉虫探求も一区切りついた。三年がかりで集めてきて感じるのは、チェコ産の三葉虫は、状態を問わなければ、必ずしも入手困難ではない、ということだ*1。蒐集を始めたばかりのころ、ネットを見ると、チェコ産はめったに出ないから、見つけたときが買い時だとか、産地は壊滅状態にあり、新たな採取は望めないだとか、こっちの危機意識を煽るような言説ばかりが目についた。それはまあそうだとして、オールドコレクションの放出というのはつねに行われているので、その質と量が相当なものであることは、極東の島国から望見してもおぼろげながらそれと知れる。そう悲観的にならなくても、じっと様子をうかがっていれば、自分の好みに合ったものがお手頃価格で手に入ることも珍しくないのだ。

というわけで、これからボヘミア三葉虫を集めてみようと思っている人のために、次の三つのストアを紹介しておこう。


チェコ語が分らなくても、翻訳ソフトを使えばなんとかなる。価格は良心的だし、担当者(店主?)も親切なので、ぜひ利用してみてほしい。

*1:もっとも、オルドビス紀以降になると難易度はぐっと上がるが

オギギヌス・ゲッタルディ

フランスの代表的な三葉虫は? と訊かれたらどう答えるか。あれでもない、これでもないと考えたあげく、最後に残ったのがオギギヌス・ゲッタルディ(Ogyginus guettardi)だ。初期の分類者であるブロンニヤールがこれをアサフス目に含めず、あえてオギギア目を立ててそこに分類したことからも、なんとなく特別扱いされている種のような気がする。

とりあえず画像をあげよう。一枚目はブロンニヤールの論文の図版、二枚目は TRILOBITES OF THE WORLD に載っているもの。




さて、これを見てどう思われるだろうか。「これってノビリアサフスじゃないの?」と思われる方がおられるかもしれない。じっさい私も最初はそう思った。属名が違うだけで、実質的にはフランス産のノビリアサフスなんじゃないか、とね。

ノビリアサフスについてはかつて何度か言及したことがある。この種の特徴として第一にあげるべきは、尾板の中軸に並ぶV字型の装飾と、同じく尾板の肋と交差しつつ走る放物線状のテラスラインだ。おおざっぱにいって、こういう尾板をもっている種類なら、ノビリアサフスと同定してまちがいない。ポルトガル産の三葉虫でノビリアサフスと紛らわしいのにイサベリニアというのがあるが、これには尾板中央のV字模様はないようだ。

ではフランスのオギギヌスはどうかというと、こういったノビリアサフスに特徴的な尾板の装飾がすべて備わっているので、そのかぎりでは Ogyginus guettardi = Nobiliasaphus nobilis と見なして差し支えない。ところが頭部を見ると、やはり両者を同一種とするにはちょっと無理があることに気づく。

この間の事情を語るものとして、次の掲示板にあがっている図をご覧いただきたい。


この図では、Ogyginus ではなくて Basilicus になっているが、あまり気にしなくていい。これがノビリアサフスとは別種であることさえ分ればそれでいいのだ。

今回、そのオギギヌス(もしくはバシリクス)と思われる標本を手に入れた。あまり状態はよくないが、特徴はよく出ているのでこれでよしとしよう。ベージュ色に保存された個体の方には、特徴的な尾板の様子(V字模様とテラスライン)がはっきり表れている。標本全体の大きさは約75㎜。産地はブルターニュ地方のラ・ドミヌレ(La Dominelais)。


Ogyginus guettardi (Basilicus guettardi)





フランス産に特有の、野暮ったくもあればシックでもあるマチエール。それはセザンヌの描く静物画のようだ。あまり一般受けはしないかもしれないが、いったん気に入ったら病みつきになりそうな、ふしぎな魅力があると思う。



(2月5日、追記)
ふと気づいたが、この標本の上の方のオレンジのほうがオギギヌスもしくはバシリクスで、下のベージュのほうはノビリアサフスなんじゃないか、と。いったんそんな気がすると、もうそういうふうにしか見えなくなる。間違っているかもしれないが、確証があがるまでは宙ぶらりんにしておこう。

ディプレウラ・デカイ

デボン紀ニューヨークの産。ご覧のとおりコンポジットものだが、不自然さを感じさせないようにうまく貼り合せてある。上から見るとじゃっかん頭部が大きく、全体が寸詰まりのようだが、そんなことを気にしても始まらない。なにしろコンポジットなのだから……

いやむしろ、これだけ質感のいい標本が安く手に入ったことを喜びたい。私も現物を見るまでは、本種がここまでみごとな外殻(形相、質料ともに)をもっているとは知らなかった。三葉虫好き、ホマロノトゥス好きなら涎を垂らして喜びそうなしろもの(体長:13㎝)。


Dipleura dekayi


とにかくどこから眺めても「ほう……」とか「すごい!」という言葉しか出てこない。これを文章化して褒め称えるには、Fっしる店長並みの文才が必要だ。







     * * *


次にホマロノトゥス類について少し書いておこう。


オルドビス紀前期に共通祖先である(とみなされている)Bavarilla ofensis (Barrande, 1868) が出現。これから五つの系列が分岐した。

1.未定亜科
これは Leiostegina 属を出したのみで、オルドビス紀後期に絶滅。

2.エオホマロノトゥス亜科
ここからはまず Eohomalonotus が出て、シルル紀の Brongniartella 、デボン紀の Homalonotus と続いたが、デボン紀中期で絶滅。

3.ケルフォルネラ亜科
ここからはケルフォルネラほかが出たが、オルドビス紀後期に絶滅。

4.ホマロノトゥス亜科
ここからはまず Platycoryphe が、ついで Digonus が出て、Parahomalonotus、Wenndorfia、Burmeisterella、Scabrella などが輩出したが、デボン紀中期で絶滅。

5.トリメルス亜科
ここからはシルル紀に Trimerus が、ついでデボン紀に Dipleura とBurmeisteria が出た。デボン紀後期に絶滅。


(参考ページ:Famille des Homalonotidae (Chapman, 1890) - Nach Taxon / By taxon - TRILOBITA.DE - Die Diskussions-Plattform für Trilobiten-Freunde

リカス! リカス!

前にも書いたように、私のコレクションにはリカス成分が決定的に不足している。なんとかならないもんかとつねづね思っているのだが……

──リカス、リカスと叫んで呼べば、リカスがくる。

ほんとですかね、そんなうまい具合にいくのかしら。

さて、リカスの魅力はどんなところにあるか。故ボンメル氏によれば、それは稀少性と怪物性だという。なるほど、そうかもしれん。見た目の異様さと、数の少なさ(つまり手に入れにくさ)と。

ところで、私の知っているリカスは、たとえばアカントピゲだとか、アルクティヌルスだとかの、比較的大きめの種類が多い。大きさというのは、怪物性と相関関係にあるもので、巨怪なんて言葉もあるように、大きければ大きいほど怪物性も増すのである。これの典型がニューヨークで産するテラタスピスで、稀少性と怪物性に加えて、サイズのほうもマックスに達している(60センチ弱)。


巨大三葉虫テラタスピスの頬棘(「ニューヨークの三葉虫」より)

Largest Trilobitesより転載


そこまで大きいのはいらないが、まあ少なくとも10㎝くらいはないとリカスらしくないよなあ、と思いながら図鑑類を見るに、意外や、入手可能なリカスの大部分は数センチという小ささなのである。1㎝前後というのも珍しくない。こどものリカスだと思って軽んじていたモロッコのロボピゲなんかはむしろ大きいほうに属する。リカスにはある程度のサイズがほしい、という私の願望にかなうのは、稀少なリカスのうちの、さらに稀少なごく一部のようだ。

稀少中の稀少。うーん、困ったな、そんなものはまず手に入らないぞ。

まあいい、1㎝ほどのリカスを10個あつめてリカス濃度を上げるより、それひとつあれば群小リカス10個分くらいに相当するようなやつを一個手に入れる方が私には合っている。そういうのを数年に一個づつ手に入れて行けばいいんじゃないかな。

というわけで、リカスに関しては金に糸目はつけないことにきめた。「ついにリカス出で来たれり!」と手放しで賞賛できるやつだけ探すことにする。

鬼が笑う話

2016年が暮れようとしている。来年はいよいよロシア三葉虫が解禁になるのだ。なんと、わくわくする話ではあるまいか、と気分の高揚を抑えきれないが、さてじっさい何が欲しい? と訊かれたら、答えにつまるのですな。そりゃまあ欲しいものはいくつもある。スコトハルペス、メトポリカス、パンダスピナピガ、はてはニエシュコフスキアなんていう、名前をきくだにゾクゾクするような三葉虫はいくつもある。しかし自分に手の届く範囲で、さて何を買うかとなると、意外にその数は限られてくる。限られてくるどころか、ほんの二、三種しかないんじゃないかという気がする。

その二、三種をあげてみようか、と思ったが、来年のことをいえば鬼が笑うというし、取らぬ狸になってもつまらない。

まあことが順調にすすんで、その二、三種を手に入れることができたとしよう。これで私のロシア三葉虫探求が終るかといえば、たぶんそんなことはない。先へ行けば行くほど新たな眺望が開けてくるのがこの世界の常なのだ。

SPPLとMFが共同で出したロシア三葉虫の図鑑を眺めていると、ケルムスという異様な三葉虫が目についた。標本の写真はなく、ヴォルボルトの論文から抜いたイラストだけが出ている。写真も出せないほど稀少なものなのか、と思ってネットで検索してみると、あるところにはあるんですな。それも売り物になっている。ほほう、と思いつつ値段をみると、に、にひゃくごじゅうまんえん!?

ちなみに大きさは15㎜ほどらしい。

これをバカバカしいとみるか、すばらしいと思うか。

いまの私は前者だが、いずれ後者に傾くときが必ずくる。そうでなければ嘘だと思う。ロシア三葉虫探求とは、つまるところ15㎜の虫の化石に250万円をはたいて悔いない境地にいたるまでの長い長い道のりなのである。


(追記)
あらためてよくよく見たら、25万円でした。そりゃそうですよね……
桁をまちがえても気がつかないところに、私の病みっぷりがあらわれてますね。