アメロピルトニア・ラウラダナエ

北米産の石炭紀三葉虫。購入元のデータによれば、ミズーリ州のセイリーン郡に Chouteau Formation という石炭紀の地層が露出していて、そこからこの三葉虫が産出するらしい。本種はまた Breviphillipsia sampsoni もしくはたんに Phillipsia sampsoni とも呼ばれていて、セイリーン郡に程近いブーン郡でも産するとのこと。

BPMの図鑑では、本種はニューメキシコから産するような書き方になっていて紛らわしい。おまけに Chouteau Fm.を Chotenau Fm. と誤記している。石炭紀の扱いの雑さはこんなところからも窺い知れる。

さて今回の標本は、ご覧のとおり一風変った整形がなされている。それは前に取りあげた英国産の黒いパラディンの特異な整形の手を一歩進めたもので、母岩は完全に刳り抜かれ、半円形の窓のように開いていて、本体はその窓のへりにやや反り気味の姿勢で、斜めに横たわっている。サイズは直線で 14mm。


Ameropiltonia lauradanae


アメロピルトニアといえば、どうしてもその外殻表面のツブツブ、というより微小なトゲがあげつらわれる。しかしたいていの場合、それらのトゲは剖出のさいに摩耗してしまって、まろやかなツブツブになっていることが多い。個人的にはもう少しシャープなほうが好みなのだが、透明感のあるベージュのカルサイトに置換された外殻はそれ自体として美しい。


ボランディア・グロビケプス

2017年度はロシアの三葉虫を、と思っていたが、どういうわけか石炭紀のものばかりが手元に集まってくる。こういう流れはまったく予期していなかった。去年までは探してもなかなか見つからなかった石炭紀三葉虫が、向うのほうから「私を買って」とばかりに押し寄せてくるとは……

そんなわけで、しばらくは石炭紀三葉虫の記事ばかりが続くと思う。ただでさえ少ない読者がますます減りそうだが、あまり気にせず書いていこう。

さて今回のはベルギー産のボランディアというもの。正式にはボランディア・グロビケプス・クレイニという長たらしい名前だ。大きさは 17㎜。


Bollandia globiceps kleini



石炭紀三葉虫は、集めるにあたって大きさや保存状態をあまり気にしなくていいのが楽だ。ただし、個人的には眼だけはちゃんとついていてほしいと思っている。石炭紀のプロエトゥス類は、眼の部分がぽろりと取れてしまっている標本が少なくないからで、れっきとした図鑑に載っているものにもそういったものはある。

本種は同じ産地から出るカミンゲラ(クミンゲラ)と見分けがつきにくいらしい。私も各種の画像を見比べてみたが、これがボランディアでこれがカミンゲラ、というはっきりした違いを見出すことはできなかった。その一方で、どう見ても違う種類のものが、同じボランディアという名前で呼ばれている場合もあって、このあたりは専門家でないとまず特定不可能だろう。

今回の標本はベージュ色で保存されているが、同産地では、ほとんど白に近い色で保存されているボランディアもしくはカミンゲラも存在する。写真でみるかぎり、非常に美しいのだが、現物はどうだろうか。機会があれば手に入れてみたい。

コレクションの方向性

どうも私はいいコレクターにはなれないみたいだ。もうそれは諦めた。そんならコレクションをやめるかというと、そんな気はいまのところない。ものを集めるのは楽しいことだ。その楽しみを放棄するつもりはない。

ではどうするか。その前に、自分がどういうものを集めたがっているか、考えてみよう。

私がものを集めるに際して重要視するのはただ一点のみ。それは「魅力があるかどうか」にかかる。魅力といっても漠然としているから、もう少し具体的にいうと、

1.それを眺める楽しみ
2.それを所有する喜び

この二つの愉悦がいつまでも失われず、それどころかいや増しに増してくるような、そういうオブジェが私にとって「魅力的」なのである。見た瞬間に「すごい!」と思っても、そのうち飽きてしまうようなのはダメだ。派手なもの、奇異なもの、鬼面人を驚かすていのもの、そういうのは刺戟がつよいぶん、飽きるのも早い。高い金を出してトゲトゲ三葉虫やアンモライトを買ったものの、意外に早く熱が冷めてしまった人も少なくないのではないか。

魅力の有無には、価格の高低や稀少性も少しは関係するかもしれないが、それらはおそらく本質的でない。たとえばロシア三葉虫ではありふれたアサフス・エキスパンスス。これの標本にどれほど深く魅了されているか、自分でも意外な気がするくらいだ。私が次に買うロシア三葉虫は、たとえ高額の稀少種だったとして、はたしてこのアサフスレベルの魅力をもちうるだろうか?

ところで、この魅力の有無は、購入して手元に置いてみるまでは分らないのである。もちろん気に入らないものは買わないので、買ったという時点ですでに気に入りなのは確かだ。しかし、その愛着が持続するかどうかはある程度の時間が経たないとわからない。ものによっては数時間で熱の冷めるものもあれば、数ヶ月、数年と保つものもあるだろう。

買ったものの、愛着が持続しないものはどうするか。さらに時間が経って、また愛着が湧いてくるのを待つか。しかし私の経験上、いったん愛着を失った品がふたたび魅力を盛り返してくることはまずない。よほどのことがないかぎり、いったん切れた絆がふたたび繋がることはないので、そういう事物はなるべく早く身辺から遠ざけた方があらゆる意味で得策だ。オブジェのほうにしても、気に入らぬ主人のもとを去って、新たな持主にかわいがられたほうがいいだろう。

まあ、いずれにしても、こういう失敗を繰り返さないためにも、自分がどういうものは気に入って、どういうものは気に入らなくなるか、しっかりした見通しを得るのが大切だ。好奇心の満足というのも、ものを買うにあたって大きな契機になるが、たいていはそれっきりで、興味が持続することはない。それから、とくに欲しくもないが、値段が安いから、という理由で買うのもやめておくこと。あと、コレクションをしていると必ずマストアイテムというのが出てくるが、これも要注意だ。「これを持ってないとやっぱりカッコつかないしなあ……」 いや、だれに対してカッコつける必要があるのか。そんなのは真性コレクターの領分であって、自分のような仮性(?)コレクターには無縁のものと知るべし。

A la twitter

某月某日
電車に乗っていたら、どこからともなく石灰岩の匂いが漂ってきた。はっとして目を上げると、そこにバルダイテスそっくりの顔をした男が立っていた。

某月某日
ヤフオクで売れた商品を梱包しながらため息をつく。「はあ、買って行くの男ばっかりやな……」

某月某日
「このカリメネは目もよく保存されており……」
「いやいや、それ目じゃないでしょ、頭のコブでしょ……」

某月某日
「おれはダドリーバグ、シルル紀三葉虫だぞ」そう言って彼は胸をそらした。しかしその姿はどうみてもウミサソリであった。

某月某日
新しい復元図が発表されるたびにつまらなくなっていくハルキゲニア。しかしそれとは関係なく、化石としてのハルキゲニアはつねにすでに魅力的だ。イコンに対するイデアの勝利がそこにはある。

ハルキゲニアの初期の復元。やっぱりハルキゲニアはこうじゃないとね。


某月某日
ハミープレップ(笑)

ファコピディナ・ミシェリ・ミシェリ

本種はもともとダルマニテス・ミシェリという名前だったが、いつのまにかアカステ科に編入されて属名もファコピディナに改められた。ファコピディナの模式種(Phacopidina harnagensis)は英国産らしく、チェコでも似たようなのが出るらしい。しかしこんにち一般にファコピディナの名で呼ばれるものは、ポルトガル、スペイン、フランスで出るものにほぼ限定されるようだ。そのうちとくにフランスで出るものに対して、ミシェリを一個追加して、ファコピディナ・ミシェリ・ミシェリとしているのではないか。

今回手に入れたのはネガポジもので、ご覧のとおりポジ側には母岩がほとんど残っていない。本体の長さは3㎝ほどで、そう小さいわけではないが、母岩なしではいかにも頼りなく感じられる。


Phacopidina micheli micheli


しかしこれを逆手にとって(?)、ハイポストマまで剖出したのはプレパレーターの手柄だろう。というのも、本種のハイポストマつきの標本などそうあるものではないからだ。



ふだんはネガの上にポジを置いておけば、いちおう格好はつく。やはりこういうのがいちばん化石標本らしくてよいですね。



この標本の個眼は、ふつうとは逆にすべて凹型に保存されている。どうしてなのか購入元に訊いてみたところ、ブルターニュ三葉虫はすべて内型(moule interne)だから、という答えだった。しかし、内型だからといって眼が凹凸逆になるとは思えない。もっとほかに原因があるはずだ。うちにある標本では、ボヘミアのダルマニティナがやはりこういうタイプの凹んだ複眼をもっている。



さて今回の標本、母岩上に点々と金粉のようなものが散らばっている。これは前のオギギヌス(&ノビリアサフス)のものもそうだった。おそらく黄鉄鉱の粒だと思われる。それだけの話だが、他産地ではあまり目にしないので、いちおう記しておきます。


     * * *


本文とは関係ないけれども、この前買ったエッカパラドキシデスとオギギヌス(&ノビリアサフス)を化石棚に置いたところ。フランス産の三葉虫は、こういう渋い標本のあいだに紛れ込ませたほうがよく映えるようだ。


エッカパラドキシデス・プシルス

──あなたはレドリキア派? それともオレネルス派?
──パラドキシデス派です。

分る人にしか分らないボケだが、こういう人は意外に多そうな気がする。レドリキアにもオレネルスにもあまり関心がなくて、パラドキシデスだけが好きっていうのがね。

さて、今回手に入れたのはチェコのエッカパラドキシデス。これが前から欲しかったんですよ。でもなかなかこれといった標本が見つからない。今回のもそれほど保存がいいわけではないが、全体の感じがなんとなく毅然としていてカッコいいのが気に入った。値段も安かったしね。


Eccaparadoxides pusillus (L.38mm)


チェコカンブリア紀三葉虫は、外殻が溶けてしまって内型(internal mold)だけが残っているのが少なくない。しかし今回のものは、黄土色の外殻がかなり(九割くらい?)残っていて、ちょっと得をしたような気分だ。フリル部分に通常見られるテラスラインは、内型に残された重複板の印象なので、今回のように外殻が保存されている場合には見られない。

バランド先生によれば、本種には縦長型と幅広型があるらしい。私の買ったのは縦長型のようだが、それは右側の部分が失われている(もしくは母岩中に埋っている?)ためにそう見えるだけかもしれない。先生の持論では、同一種における縦長型はオス、幅広型はメスとのことだが、これは今日では否定されている。たんに地中の圧力で縦に伸びたり横に広がったりしただけのものも多いだろうからだ。

エッカパラドキシデスは前にスペイン産のを買ったことがある。そのときは種名がわからず、「~の一種」としておいたが、その後気をつけていると、どうも Eccaparadoxides pradoanus である可能性が高い。これは ecca- が取れてたんに Paradoxides pradoanus と呼ばれることもある。



左のものがそのスペイン産だが、こうしてふたつ並べてみると、どうもあまり似ていない。レヴィ=セッティの本を見ると、ひとくちにエッカパラドキシデスといってもいろんな種類があるようだ。


チェコの博物館にあるタイプ標本


     * * *


今回本種を手に入れたことで、私のボヘミア三葉虫探求も一区切りついた。三年がかりで集めてきて感じるのは、チェコ産の三葉虫は、状態を問わなければ、必ずしも入手困難ではない、ということだ*1。蒐集を始めたばかりのころ、ネットを見ると、チェコ産はめったに出ないから、見つけたときが買い時だとか、産地は壊滅状態にあり、新たな採取は望めないだとか、こっちの危機意識を煽るような言説ばかりが目についた。それはまあそうだとして、オールドコレクションの放出というのはつねに行われているので、その質と量が相当なものであることは、極東の島国から望見してもおぼろげながらそれと知れる。そう悲観的にならなくても、じっと様子をうかがっていれば、自分の好みに合ったものがお手頃価格で手に入ることも珍しくないのだ。

というわけで、これからボヘミア三葉虫を集めてみようと思っている人のために、次の三つのストアを紹介しておこう。


チェコ語が分らなくても、翻訳ソフトを使えばなんとかなる。価格は良心的だし、担当者(店主?)も親切なので、ぜひ利用してみてほしい。

*1:もっとも、オルドビス紀以降になると難易度はぐっと上がるが

オギギヌス・ゲッタルディ

フランスの代表的な三葉虫は? と訊かれたらどう答えるか。あれでもない、これでもないと考えたあげく、最後に残ったのがオギギヌス・ゲッタルディ(Ogyginus guettardi)だ。初期の分類者であるブロンニヤールがこれをアサフス目に含めず、あえてオギギア目を立ててそこに分類したことからも、なんとなく特別扱いされている種のような気がする。

とりあえず画像をあげよう。一枚目はブロンニヤールの論文の図版、二枚目は TRILOBITES OF THE WORLD に載っているもの。




さて、これを見てどう思われるだろうか。「これってノビリアサフスじゃないの?」と思われる方がおられるかもしれない。じっさい私も最初はそう思った。属名が違うだけで、実質的にはフランス産のノビリアサフスなんじゃないか、とね。

ノビリアサフスについてはかつて何度か言及したことがある。この種の特徴として第一にあげるべきは、尾板の中軸に並ぶV字型の装飾と、同じく尾板の肋と交差しつつ走る放物線状のテラスラインだ。おおざっぱにいって、こういう尾板をもっている種類なら、ノビリアサフスと同定してまちがいない。ポルトガル産の三葉虫でノビリアサフスと紛らわしいのにイサベリニアというのがあるが、これには尾板中央のV字模様はないようだ。

ではフランスのオギギヌスはどうかというと、こういったノビリアサフスに特徴的な尾板の装飾がすべて備わっているので、そのかぎりでは Ogyginus guettardi = Nobiliasaphus nobilis と見なして差し支えない。ところが頭部を見ると、やはり両者を同一種とするにはちょっと無理があることに気づく。

この間の事情を語るものとして、次の掲示板にあがっている図をご覧いただきたい。


この図では、Ogyginus ではなくて Basilicus になっているが、あまり気にしなくていい。これがノビリアサフスとは別種であることさえ分ればそれでいいのだ。

今回、そのオギギヌス(もしくはバシリクス)と思われる標本を手に入れた。あまり状態はよくないが、特徴はよく出ているのでこれでよしとしよう。ベージュ色に保存された個体の方には、特徴的な尾板の様子(V字模様とテラスライン)がはっきり表れている。標本全体の大きさは約75㎜。産地はブルターニュ地方のラ・ドミヌレ(La Dominelais)。


Ogyginus guettardi (Basilicus guettardi)





フランス産に特有の、野暮ったくもあればシックでもあるマチエール。それはセザンヌの描く静物画のようだ。あまり一般受けはしないかもしれないが、いったん気に入ったら病みつきになりそうな、ふしぎな魅力があると思う。



(2月5日、追記)
ふと気づいたが、この標本の上の方のオレンジのほうがオギギヌスもしくはバシリクスで、下のベージュのほうはノビリアサフスなんじゃないか、と。いったんそんな気がすると、もうそういうふうにしか見えなくなる。間違っているかもしれないが、確証があがるまでは宙ぶらりんにしておこう。