無一物の蒐集家

化石標本を大量にもっている人を想像してみる。彼の何千という標本は、いずれもしかるべき場所に保管されていて、ふだんは目につかないようになっている。彼は新しい標本を手に入れることに夢中で、すでにもっている標本を眺めることなどはしないのである。…

女性と三葉虫

三葉虫と女性とは相性がわるい。私の狭い見聞の範囲でいうのだから、間違っているかもしれないが。むかし勤めていた会社でスカルレプリカなるものを扱ったことがある。その名のとおり、動物の頭蓋骨の複製だが、いくつか化石のレプリカも混っていた。そのな…

追憶の三葉虫

少し自分の子供のころを振り返ってみよう。──やれやれ、ついに自分語りですか? ──まあ、そう手厳しいことをおっしゃらずに……私が三葉虫の存在を知ったのは、小学校の低学年のころで、子供向けの百科事典にその挿絵が出ているのを見たのが最初だ。当時は怪獣…

ブマストゥスについて

フォーティの本の図版で見て以来、ブマストゥスには特別な関心をもっていて、いつかは現物を、と思っていたが、なかなか目にする機会がない。それもそのはずで、これは英国のシルル紀の産なのである。そんなものが私のところへ廻ってくるはずもないのだが………

シルル紀の三葉虫

私がひそかに「ダドリー三大頭ボール」と名づけている三葉虫がある。スフェレキソクス、スタウロケファルス、ダイフォンがそれだが、これらの模式種を調べてみると、いずれも英国より先にボヘミアで産出していることに気がつく。ダドリー三大頭ボールは、じ…

ダイフォンについて

待てば海路の日和あり。ぜったい入手不可能と思っていた本種を手にする日が来ようとは……*1 Deiphon barrandei 体長は 16mm と小さいが、幅があるのでけっこう大きくみえる。ダイフォンの模式種である D. forbesi がチェコで産出するのに対し、こちらは英国ウ…

レモプレウリデス・ナヌス

レモプレウリデスには前から興味があって、手頃な標本があれば手に入れたいと思っていた。今回入手したのは、ロシアで産出するレモプレウリデス・ナヌスのうちでもエロンガタ(もしくはエロンガトゥス)と呼ばれる亜種のようだ。 Remopleurides nanus var. e…

ホプロリカス・プラウティニ

昨日、郵便屋さんから荷物を受け取ったとき、いやな予感がした。というのも、その小包のなかで何か重いものがゴロゴロと音を立てて転がっているのだ。もしやという気持と、そんなことがあるはずないという気持のせめぎ合いのうちに荷解きをしてみると──タッ…

エンクリヌロイデス・エンシエンシス

中国の四川省で産出したシルル紀の三葉虫。買ったときの名前は Coronocephalus rex Grabau だったが、これはどうだろうか?中国の三葉虫についてはあまりよく知らないので、断定的なことはいえないが、ごくふつうのイチゴ頭に「Coronocephalus 王冠をかぶっ…

イレヌス・クラッシカウダ

ふた月ほど前にかなり気を揉まされたイレヌス・クラッシカウダ。その後気をつけていると、複数のショップで同一種が出ているのが目についた。どうもまとまった産出があったようで、いろんなタイプの標本から選べるのはありがたいが、どれをとってもけっこう…

イソテルス・マキシムス(二個目)

イソテルスの仲間は北米のあちこちで産出する。そのうちでもオハイオのイソテルス・マキシムスは外殻の色合いが美しく、かつ相当な大きさに達するので、なかなか人気も高く、おいそれとは手が出せない。しかし小さい部分化石なら安く手に入る。今回買ったの…

トリメロケファルス・カエクス

眼のないファコプスとして一部では有名な(?)トリメロケファルス。ドゥクティナとよく似ているので間違えやすいが、ドゥクティナは頭部がすっぺりと滑らかなのに対し、トリメロケファルスの頭部は細かい粒々で覆われている。 Trimerocephalus caecus (L:25…

イサベリニア・グラブラタ

到着した標本を眺めながらいつも思うのは、これはほんとに〇〇だろうか、ほんとに××から産出したものだろうか、ということ。どうもそのへん怪しい標本が多いように思うんですよ。こっちにはっきりした同定の手段があればべつだが、そうでない場合は売り手の…

オカタリア・スズイイ

スペインのカンブリア系から出たもので、産地はレオン県のカンタブリア山脈とのこと。Cambrian, Cantabrian と書いてあるので何かの間違いかと思ったが、そういう名前の山があるらしい。ご覧のとおり頭部のみの部分化石で、緑がかった灰色の母岩に黄色で保存…

三葉虫人間はどこにでもいる

「週間はてなランキング」とかいうのが目についたので見てみると、はてなブログでブックマークが何百とか、ものすごい数字が並んでいる。このあたりははてな村(今でも使われているのか?)の絶巓であり、極北である。自分のところと比べることさえおこがま…

化石や鉱物の手入れ

みなさんは標本につく埃はどうしてますか?自分はケースに入れて保管しているから、埃なんか気にしない、という方もおられるでしょう。まあそれはそれでかまいませんが、ケースに入れているからといって、埃が付着しないとはかぎらない。まったく、埃という…

カリメネについて

みなさんはカリメネがお好きですか? 私は大好きですよ~というわけで(?)、今回はカリメネのお話。まず大御所フォーティの意見を聞いてみよう。「カリメネは多くの人から典型的な三葉虫とみなされている。……シルル紀の地層で最もふつうに見つかる三葉虫の…

グリーノプス・ウィデレンシス

「ニューヨークの三葉虫*1」という大判の本を飾る(?)何種類ものグリーノプス。その魅力的な画像を眺めながら、自分もいつかはニューヨークのグリーノプスを、と思っていたが、なかなかこれといった標本が見つからない。上記の本のすばらしい画像を見てい…

コルポコリフェ・ルオーティ

某氏のブログに、複眼が保存されたロシアのアサフスの記事が出ていたので、手持ちのエキスパンススの眼をルーペで調べてみたが、個眼レンズなどひとつも確認できやしない。まあこれは仕方ないな、と思って、何の気なしにプリオメラ(同じくロシア産)の眼を…

腕足類と三葉虫と蘚苔虫のコラボ

三葉虫には ventral(裏彫り)というクリーニング法がある。その名のとおり、腹側から母岩を取り除く方法で、背側からのクリーニングほど一般的でない。これが行われるのは、たとえば付属肢つきの標本、ニューヨークのトリアルツルスやブンデンバッハのコテ…

スコトハルペス・スパスキイ

前から欲しかったがあまりの高さに手が出せずにいたもの。今回わりあい安価に買えたのはラッキーだったが、一般に出回っているものよりも一回り以上小さい(18㎜ほど)。このサイズのおかげでだいぶ安くなっているように思う(ふつうは25㎜ほど)。しかし本…

スピニボレ・コッドネンシス

英国産の石炭紀三葉虫。産地はデボン州のバーンスタプルという町の近くで、そこに Coddon Hill Beds という石炭紀前期の地層があるらしい。種名の coddonensis はその Coddon Hill から取られたものだろう。Spinibole の spini- はたぶん「トゲ」の意味だと…

アルケゴヌス(・ラティボレ)・レヴィカウダ

ドイツ産の石炭紀三葉虫。黒いネガポジセットはアプラート(Aprath)から、白い尾板標本はフェルバート(Velbert)からそれぞれ採取されたものだが、地図で確認すると、このふたつの産地はそれほど離れていない。おそらく同じ地層がつながっているのではない…

ディトモピゲ・スキトゥラ

テキサス州ブリッジポートのウルフマウンテン頁岩から産出したもの。この地の三葉虫は大半が小さいノジュールのかたちで産出するらしい。今回のものもノジュールを割って出たものだが、母岩がほとんど残っていないので、元々の産状は不明だ。外殻がよく残っ…

アメロピルトニア・ラウラダナエ

北米産の石炭紀三葉虫。購入元のデータによれば、ミズーリ州のセイリーン郡に Chouteau Formation という石炭紀の地層が露出していて、そこからこの三葉虫が産出するらしい。本種はまた Breviphillipsia sampsoni もしくはたんに Phillipsia sampsoni とも呼…

ボランディア・グロビケプス

2017年度はロシアの三葉虫を、と思っていたが、どういうわけか石炭紀のものばかりが手元に集まってくる。こういう流れはまったく予期していなかった。去年までは探してもなかなか見つからなかった石炭紀の三葉虫が、向うのほうから「私を買って」とばかりに…

ファコピディナ・ミシェリ・ミシェリ

本種はもともとダルマニテス・ミシェリという名前だったが、いつのまにかアカステ科に編入されて属名もファコピディナに改められた。ファコピディナの模式種(Phacopidina harnagensis)は英国産らしく、チェコでも似たようなのが出るらしい。しかしこんにち…

エッカパラドキシデス・プシルス

──あなたはレドリキア派? それともオレネルス派? ──パラドキシデス派です。分る人にしか分らないボケだが、こういう人は意外に多そうな気がする。レドリキアにもオレネルスにもあまり関心がなくて、パラドキシデスだけが好きっていうのがね。さて、今回手…

オギギヌス・ゲッタルディ

フランスの代表的な三葉虫は? と訊かれたらどう答えるか。あれでもない、これでもないと考えたあげく、最後に残ったのがオギギヌス・ゲッタルディ(Ogyginus guettardi)だ。初期の分類者であるブロンニヤールがこれをアサフス目に含めず、あえてオギギア目…

幻の三葉虫

信山社発行の「世界の三葉虫」(進化生研ライブラリー1)は、もう20年以上も前の出版物でありながら、いまでも新本で買えるところがすごい*1。内容は一部古びてしまっているところもあるが、その反面、今では入手しがたい種類や、出所の怪しげな珍品も紹介…