正十二面体の黄鉄鉱

正多面体は三次元空間においては5種類しかないらしい。そのなかでも正十二面体のすばらしさは格別で、こういうものは数学者が理論的に導き出すよりほか、自然界には存在しないんじゃないかと思っていた。五角形というのがそもそも不安定であるのに、それを12個組み合せて立体を作るなんて、まさにプラトン的、いやピュタゴラス的叡智の所産ではないか、とね。

ところが案に相違して、自然界にもこれが見出されるのである。今回手に入れた黄鉄鉱の結晶だが、ややいびつではあるものの、ちゃんと正十二面体にできあがっている。ほほうこれはすごい、としばし見入ってしまった。



黄色いのは私の手製の正十二面体


黄鉄鉱自体はたいして価値のある鉱物ではなく、それゆえに(?)「愚者の黄金」などと呼ばれているらしい。それにアンモナイトなどでは外殻が黄鉄鉱に置換されたものはざらに見かける。またその結晶体もおおむね正六面体(立方体)で、私にはたいして魅力的ではなかった。

しかし、これが正十二面体となると話は違ってくる。たとえいびつにもせよ、こういうものを自然が作りあげたことに改めて驚異を感じる。

それはおまえの料簡が狭いだけだよ、自然はもっともっと驚異的なものをいっぱい作ってるよ、という人もいるだろう。たしかにそれはもっともなのだが、そういうのはまた違ったレベルで、やはりこれは驚くべきものではないかと思う。この感覚は、たとえばボルヘスが「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」のなかで語っている「非常に重い円錐形の物体」がもたらす驚異に近い、といったら分ってもらえるだろうか。

よけいに分らん、といわれそうだが……

手短にいえば、イデア界の自然界への侵入を目の当りにしたかのような驚き、です。