優雅で奇怪なウミユリについて

ウミユリの化石は本質的に優雅で、しかも奇怪だと思う。優雅なのは、この生き物が植物に似ているからで、奇怪なのは、その植物的な外見の下にまごうかたなき動物性を露呈させているからだ。このふたつの要素が排斥しあうことなく同居して絶妙のバランスをとっているところにウミユリの美しさがあると思うのだが、どうか。

とはいっても、もちろん種によってそのいずれかに傾くのはやむをえない。たとえば今年の初めに手に入れたマクロクリヌス・ムンドゥルス。これは優雅というか優美というか、ウミユリのあり方のひとつの典型ではないかと思う。


マクロクリヌス・ムンドゥルス(Macrocrinus mundulus)


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ウミユリの化石はもちろんマクロクリヌス以外にもいっぱいあるが、どうも審美的見地からこれを超えるようなのはあまり見当らない。そう思っていたところ、たまたま目についたのがカナダ産のクプロクリヌスというもの。これもどっちかといえば優雅なほうだが、しかしそこに一抹の怪奇味の加わっているのが私の注意をひいた。


クプロクリヌス・フミリス(Cupulocrinus humilis)


現物を手に入れてつくづく眺めてみたが、やはりこれには鬼哭啾々たる趣がある。泉鏡花の代表的短篇「眉かくしの霊」に出てくる女妖のような雰囲気がこの化石にはあるように思う。



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そのものずばりの「優雅」という字を名前にもつウミユリがある。モロッコ産のスキフォクリニテス・エレガンス(Scyphocrinites elegans)がそれだが、これは名前ほどにはエレガントではなく、どっちかといえば薄汚れたような感じだ。それでも存在感だけは他のふたつに負けていない。三つ並べて写真を撮ってみたらそのことがよく分る。



年代的にいえば、クプロクリヌスがオルドビス紀、スキフォクリニテスがシルル紀、マクロクリヌスが石炭紀の地層から出ていて、それぞれのあいだに一億年くらいの開きがある。