優雅で奇怪なウミユリについて

ウミユリの化石は本質的に優雅で、しかも奇怪だと思う。優雅なのは、この生き物が植物に似ているからで、奇怪なのは、その植物的な外見の下にまごうかたなき動物性を露呈させているからだ。このふたつの要素が排斥しあうことなく同居して絶妙のバランスをとっているところにウミユリの美しさがあると思うのだが、どうか。

とはいっても、もちろん種によってそのいずれかに傾くのはやむをえない。たとえば今年の初めに手に入れたマクロクリヌス・ムンドゥルス。これは優雅というか優美というか、ウミユリのあり方のひとつの典型ではないかと思う。これを見ていると、マラルメの美しい詩句を思い出す。


そのときわれは始めての熱をおぼへて身をもたげ、
古昔の光の波のうち矗立てる孤りのわれは、
百合の如く。純き姿は爾らの一人にも似る。


マクロクリヌス・ムンドゥルス(Macrocrinus mundulus)


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ウミユリの化石はもちろんマクロクリヌス以外にもいっぱいあるが、どうも審美的見地からこれを超えるようなのはあまり見当らない。そう思っていたところ、たまたま目についたのがカナダ産のクプロクリヌスというもの。これもどっちかといえば優雅なほうだが、しかしそこに一抹の怪奇味の加わっているのが私の注意をひいた。


クプロクリヌス・フミリス(Cupulocrinus humilis)


現物を手に入れてつくづく眺めてみたが、やはりこれには谷崎潤一郎的もしくは泉鏡花的な趣があるように思う。鏡花の代表的短篇「眉かくしの霊」の一節を引けば──


 「屹と向いて、境を見た瓜核顔は、目ぶちがふつくりと、鼻筋通つて、色の白さは凄いやう。──気の籠った優しい眉の両方を、懐紙でひたと隠して、大な瞳で熟と視て、
 「……似合ひますか。」
 と、莞爾した歯が黒い。唯、莞爾しながら、褄を合せ状にすつくりと立つた。顔が鴨居に、すらすらと丈が伸びた」


こういう女妖のような雰囲気がこの化石にはあるように思う。



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そのものずばりの「優雅」という字を名前にもつウミユリがある。モロッコ産のスキフォクリニテス・エレガンス(Scyphocrinites elegans)がそれだが、これは名前ほどにはエレガントではなく、どっちかといえば薄汚れたような感じだ。それでも存在感だけは他のふたつに負けていない。三つ並べて写真を撮ってみたらそのことがよく分る。



スキフォクリニテスにふさわしい詩といえばボードレールの「髪」がある。長いので引用するのはやめておくが、興味のある方はのぞいてごらんになっては如何?

年代的にいえば、クプロクリヌスがオルドビス紀、スキフォクリニテスがシルル紀、マクロクリヌスが石炭紀の地層から出ていて、それぞれのあいだに一億年くらいの開きがある。