アグノストゥスについて

アグノストゥスの仲間は形が美しいわけでもなく、大きさも1cmに満たないものがほとんどで、三葉虫愛好家にもそれほど受けがよさそうにはみえない。今回、二体が仲よさそうに寄り添っている構図にひかれてプティカグノストゥスの標本を買ってみたが、やはり6mmというサイズは肉眼で観察するには無理があると思った。



さてこれを拡大してみるとどうなるか。



これでもそれほどおもしろくはない。しかし、この外殻の裏側にはなかなかすばらしい器官が隠されているのである。1987年にミュラーとワロセックが発表したアグノストゥスの解剖図は当時の学会を驚倒させたらしい。二人がスウェーデンヴェステルイェートランドカンブリア紀の地層で見つけたアグノストゥスの化石は、大部分が防御姿勢(コンパクトのように二つ折になった状態)をとっていたが、そのなかに軟体部がそっくり保存されていたのである。二人は電子顕微鏡を覗きながら、弱酸で母石を腐食させて繊細な器官を剖出することに成功した。



この図を見るかぎり、アグノストゥスは三葉虫の仲間というより、原始的な甲殻類に属するとみたほうがいいようだ。


     * * *


「坊主抱いて寝りゃかわいくてならぬ、どこが尻やら頭やら」という都々逸(?)があるが、坊主はともかくとしてアグノストゥス類の頭部と尾部とを判別できる人はどれくらいいるだろうか。古生物学にそうとうの知識がある人でも、「頭部と尾部にははっきりした違いが認められない」と平気で書いているくらいだから、そんなことに関心をもっている人は少ないのかもしれない。しかし上の図のように内部構造がはっきりと異なる以上、外殻にもその違いが反映されていなければ嘘だと思う。

とはいうものの、見れば見るほどその違いを直観的に把握するのはむつかしい。頭部は中央やや下寄りに三葉虫の頭鞍のようなふくらみがあり、いっぽう尾部はアサフス類に近似のすっきりとした三葉構造になっていることが多いようだ。