ボヘミアの三葉虫三種

今年になって手に入れたボヘミア三葉虫のうち、未言及のものについて書いておこう。

まずデアナスピス(ディーナスピス)・ゴルトフシ(Deanaspis goldfussi)*1。これは母石に二体載っているが、本体が小さいうえに彫りが浅くて色が薄いので、ちょっと距離をおくと石にまぎれて見えなくなる。これではまるで保護色で、およそディスプレイには不向きなのだが、こういうありかたがこの種にはふさわしいような気もする。とにかく観察には照明とルーペが不可欠だ。



これの属するトリヌクレウス科の三葉虫はどれもよく似ていて、なかなか見分けがつかない。じっさいのところ、今回買ったものも売り手がデアナスピスだというからそう思っているだけで、じつはマロリトゥスの可能性もある。

トリヌクレウス類はオギギオカレラと並んで英国でもっとも早く発見された三葉虫で、ルイド博士が手づから描いたスケッチが残っている。ブロンニャールやマーチソンの本にも図が出ているから、まずは古典的な三葉虫とみなしてさしつかえない。

トリヌクレウスとは「三つの核」の意味で、頭鞍と両頬が膨らんで核が三つ並んでいるように見えるからそう命名された。中国では三瘤虫と呼んでいるらしい。

ところでこの種類の三葉虫の特徴として、頭部の底縁に細かい孔がびっしりと規則的に穿たれている。たいていは水抜き用の孔と説明されるが、これもほんとのところは分らない。しかし機能のことははさておくとしても、この孔は装飾としてすばらしい。見ていて思わず引き込まれる感じだ。もし底縁にこの孔がなかったらこの種類の美的価値は半減してしまうだろう。

トリヌクレウス類とよく似ていて孔のないものにラフィオフォルス類がある。代表的なところではアンピクス、ロンコドマス、クネミドピゲなど。こういったものにも興味はあるが、ロシア産のものを見てしまうとほかの産地のものはずいぶん見劣りがする。しかしこのロシア産、ちゃんとしたものなら2、30万はするんですよね。もちろんそんなものは買えるはずもないので、英国産のクネミドピゲあたりでがまんするしかない。ガーヴァンのものが手に入ったら御の字だ。


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次はアグラウロス・ケティケファルス(Agraulos ceticephalus)*2。 あまり大きくならない種類で、私の手に入れたものは15mmほど。尾部の欠損を考慮に入れても17mmあるかないかだ。



大きさはともかくとしても、私のもっているボヘミア三葉虫でこれくらい見栄えのしないものはない。しかしそれはアグラウロスのせいではなく、もっぱら化石の保存状態のわるさによる。もしこれに自在頬が残っていて、16個の胸節が完備し、かつ体長が20mmくらいあれば、きっとすばらしい見ものになるに違いない。そう思わせるだけの潜在的な美的要素がこの種にはある(と思いたい)。

アグラウロスによく似ていて、やはりボヘミアで産出するものにスクレイアスピスやリタウカスピスがあげられる。もちろん似ているといっても別種なのでよくよく見れば違いが分るが、しかしよくよく見てやっと分る程度の違いにすぎないので、私としてはもうこのアグラウロスだけでよしとしよう。


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最後はダルマニティナ・ソキアリス(Dalmanitina socialis)*3。これは頭部と尾部だけの部分化石で、おそらくは別々の個体のもの。



ダルマニティナはファコプス目ダルマニテス科に属する。この科にはけっこうメジャーな種類が揃っていて、代表的なところではオドントキレ、フントニアトニア、ズリコヴァスピス、ムクロナスピス、それにもちろんダルマニテスがあげられる。私が好きでたまらないオドントケファルスもこの科に属する。

こういった有名どころからすればダルマニティナはやや影が薄いが、バランドの図版集にはずいぶんと大きく扱われているから、私としては注目せざるをえない。下にあげる図版では、この種の成長の過程が克明に描かれている。



さてこの標本のおもしろいところは、頭部をひっくり返すと裏側にトリヌクレウス類の部分化石が見られることだ。下の画像に示すのがそれだが、さきに触れたデアナスピスよりも頭鞍が盛り上っていて、モロッコで採れるオンニアによく似ている。その右に粒々のある底縁の断片があるが、これはいわゆるネガではなく、重複板(doublure)の印象ではないかと思う。孔のある底縁の下には重複板があり、これには孔ではなくそれに対応する突起すなわち粒々がついている。バランドの図版にある、外殻が一部はがれた標本の絵を参照のこと。



右の底縁の外殻がはがれて、その下の部分(重複板の印象?)が見えている
左のほうは孔(凹)であるのに対し、右は粒々(凸)であることに注意


それにしても、ダルマニティナはこげ茶色なのにその裏のトリヌクレウスは黄土色をしている。同じ場所で化石化したのだから色も同じになりそうだが、そうはなっていない。これは生前の本来の色の違いに起因するのだろうか?

*1:ベロウン地区、レトナ層(オルドビス紀、ランデイロ)

*2:スクリイェ地区、インツェ層(中部カンブリア系)

*3:ベロウン地区、レトナ層(オルドビス紀、ランデイロ)