プリオメラ・フィッシェリ

プリオメラを買うのは三度目だが、三度目の正直というわけにはいかなかった。まず色艶がよくない。腐りかけのピクルスみたいな色をしている。それにあちこち欠けがある。華麗なものが揃うロシア三葉虫には珍しいほどのおんぼろさ。しかし幸いにして(?)このぼろさのおかげでボヘミア三葉虫の隣に置いてもまったく違和感がない。

この標本のとるべき点は、まったく修正がなされていないこと、これにつきる。尾板に接着の痕があるが、そういうのは補修であって修正ではない。そしてこういう観点からすると、無修正でこれだけの状態を保っていることに驚きを感じる。まあロシア三葉虫にあってはごくふつうのことなんですがね。


Pliomera fischeri


いずれにせよロシア三葉虫は私には高すぎるので、このレベルで気に入りの種類を揃えられたら御の字だ。もちろん部分化石もオーケーなのだが、なかなかそういう半端なものにはお目にかからない。ロシア三葉虫=美麗という図式が一般的に確立してしまっているせいだろうか。

プリオメラ(Pliomera)という名前は、おそらくギリシャ語の pleion(より多い)と meros(部分)との複合語で、つまり体節が他の三葉虫よりも多い、という意味だと思う。中国語では費氏多股虫というらしい。費氏というのはもちろん人名のフィッシャー(Fischer)だ。

プリオメラの魅力はその名のとおり体節の多さと、異様にくっきりした畝溝の彫りにあると思うが、私にはそれ以上に顔が魅力的だ。一度見たらぜったいに忘れられないその顔を特徴づけるものとして、口のようにみえるギザギザのついた切れこみがある。これはもちろん口ではなく、防御姿勢をとったときに尾棘の先端がこのギザギザに食いこんで完全な密閉状態を実現できるようになっているのだ。



この標本には小さいハイポストマ(唇、口器)もついていて、なかなかいい味を出している。



     * * *


さて、今後ロシア産のものに言及することはあまりないと思うので、ロシア三葉虫の女王(と私が勝手に呼んでいる)ボエダスピスのクリーニングの様子を紹介しておこう。これを見ればいかに手間暇かけて標本が「作り出されて」いるかがよく分ると思う。ロシア三葉虫とは、高度に人工の手が加わったところの、まごうかたなき真正の化石なのである。