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エクティレヌス・ギガンテウス

イレヌスを見ていると力士を連想する。そして私がイレヌスにおいていちばん魅力的だと思うのがお尻すなわち尾部なのである。

それで思い出すのが文豪谷崎潤一郎のエピソードだ。谷崎は大の相撲嫌いで、相撲好きの人をつかまえては「男の汚い尻を見て何が楽しい」と毒づいていたらしい。私はかくべつ相撲好きというわけではなく、力士の尻を見るのが好きなわけでもないが、イレヌスの尻すなわち尾部ならば喜んで眺める。とくにお尻の皮がむけている、つまり尾部周辺の殻がはがれて重複板の痕跡があらわになっているのが好みである。そういう標本がないかと探しているが、なかなか思いどおりのものは見つからない。

この手の(というのはつまり尻の皮のむけた)標本はロシアの純正(?)イレヌスにはまず見当らないが、エクティレヌスというヨーロッパ各地およびモロッコのオルドビス系から産出する種類にはまま散見する。このエクティレヌスなる三葉虫は、日本式の力士というより欧米式のレスラーといった体格で、めちゃくちゃケンカが強そうだ。とくにボヘミアで採れるエクティレヌス・カッツェリという種類はやばい。おむすび型の頭がなんともいえない無気味さをかもし出している。

今回手に入れたのはボヘミア産ではなくて、ポルトガルで採れたエクティレヌス・ギガンテウスというもの。前のノビリアサフスと同じくヴァロンゴ層から出たものだ。圧縮をうけて平べったくなり、正中線の方向に引き延ばされているが、お尻の皮は理想的なむけ方をしている。ただし残念ながら重複板の痕跡は明瞭でない。


Ectillaenus giganteus


自在頬は外れているし、目の痕跡もあるのかないのかはっきりしないが、それでも全体からうける感じはじつにシックだ。シックというのは地味さとカッコよさとを包含するタームで、日本語でいえば「いき」にあたる。私見によれば、ポルトガル三葉虫を特徴づけているのはこのシックという要素ではないかと思う。同じ種類のものでもお隣のスペインから産出するものは微妙にモロッコ風味が加わり、そのぶんシックな味わいは薄れているような気がする。

この標本についていたラベルには独特の書体でデータが記入されているが、これを書いたのはポルトガル三葉虫界の大御所ともいうべき人物らしく、ヴァロンゴ層から出た三葉虫は大部分がこの人の手で剖出され、市場に送り出されるらしい。ネットで得た情報だからあまり当てにはならないけれども、いちおう書き留めておく。




     * * *


あと余談だが、某化石ショップのページに「モロッコでもイソテルスが出ます」とあって、半信半疑で見に行くと、これがどうもイレヌスにしか見えない。保存状態がわるくて決め手には欠けるが、やっぱりこれはふつうのイレヌスなんじゃないの、と思いながら同ショップの別のページを見ると、今度はモロッコ産のゲラストスをファコプスと称して売っている。これは明らかにおかしいでしょう。

というわけで、モロッコ産のイソテルスというのも眉唾物ではないかと思っている。