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プティコパリア・ストリアータ

以前パラドキシデスを手に入れたとき、年代がカンブリア紀中期、産地がボヘミアとしか書いてなかったので、「これはインツェ(Jince)層から出たものですか?」と購入元に問い合せたことがある。購入元というのはFっしるさんだが、そのときの答は「おそらくその可能性が高いと思われます」とのことだった。

しかしその後注意していると、どうもボヘミアにはカンブリア紀中期の地層としてはインツェ層以外には存在しないようなのだ。これより少し新しい、カンブリア紀後期の地層にオフラゼニツェ(Ohrazenice)層というのがあるが、ここからはもちろんパラドキシデスは出ない。なぜならパラドキシデスはカンブリア紀中期の終りにはすでに絶滅しているからである。

だから、「その可能性が高い」どころではなく「その可能性しかない」というのが正確な答えだが、日本人特有の謙虚さからああいうあいまいな答えになったと思われる。いずれにしても、「1+1は2になるのでしょうか?」「おそらく2である可能性が高いと思われます」といったような珍妙なやりとりで、もとはといえば私の問いが愚問だったのである。

さてそのインツェ層から出る三葉虫で、最近手に入れたのがプティコパリア・ストリアータ。ユーロ安のおかげで予算の枠内まで下りてきてくれたのは幸いだった。まあもともとそんなに高くはなかったんですけどね。


Ptychoparia striata


それにしても、これはボヘミア三葉虫好きにはけっこうアピールしそうな標本で、よくぞ売れずに残っていてくれたものだと手を合わせたくなる。化石との出会いは一期一会というのは本当の話で、いったん逃すとまず再会の見込みはない。だからといってあわてて買うと、さらにいいものがあとに控えていて臍を噛むこともあるが……

プティコパリアは、一般的にプティコパリア目プティコパリア科に属するとされているようだが、最近アドレインという人が三葉虫の分類を再編したらしく、プティコパリア目そのものが消えてしまった。ではかつてプティコパリア目に属していた三葉虫たちはどうなったかといえば、他の目に編入されたり、あるいは Uncertain の名目のもとに放り出されたりとさんざんな目にあっているようだ。

三葉虫の分類はこれまで何度も見直されているし、これからも見直されていくだろうから、新しいものに従うほかないけれども、いったん馴染んだものから脱却するのはなかなか骨が折れる。

というわけで、かつてプティコパリア目の代表として確固たる(?)地位を築いていたプティコパリア・ストリアータだが、いまや所属不明の流浪の身となり果てた。かれらがふたたび安住の地を見出すときはくるのだろうか?


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今回の標本は裏側から見ると真ん中で上下に割れている。ところが表側から見ると、よくよく目をこらさないかぎりそれらしい亀裂は確認できない。これはどういうことか。

断言はできないが、やはりなんらかの方法で補修、もとい「修正」が加えられていると考えるのが妥当だろう。ボヘミア三葉虫だからといってすべてが無修正というわけではない。バランド先生の図版集にも「一部修復あり」という文言はあちこちに出ている。それどころか、贋造すなわちフェイクすらすでに十九世紀には現れていたらしい。別種の頭部と胸部尾部とをくっつけた、実在しない種の標本はバランドのコレクションにもあり、それはそのままプラハ国立博物館に収蔵されているという。三葉虫人気が高まり、愛好家がふえるに従って、そういった贋造の技術が発達してくるのはやむをえない事態だろう。


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本種の名前の由来を書いておくと、プティコパリアは ptyx と pareia との複合語で、「皺のある頬」の意、ストリアータは「stria= 条(すじ)のある」という意味をあらわす。この場合、皺と条とは別物で、皺というのは頭部の周囲に見られる毛細血管のような装飾のことで、条というのは頭鞍と眼とをつないでいる(?)眼柄のようなものを指していると思われる。素人のあてずっぽうなので、違っていたらすみません。


前から見ると stria が細長い眼のようにみえる


古い化石の本の図版にはうってつけ?