椎野先生の講演(前半)

立松氏につづいて椎野先生の講演がありましたが、これは私にはむつかしくてよく理解できませんでした。よく分らないなりに強引にまとめると──

トゲや粒々を纏ったいかつい三葉虫とはべつに、イレヌスに代表されるような、つるっとした滑らかな三葉虫がいる。これらの三葉虫の化石を調べてみると、筋肉がついていた痕が黒く染みのようになって残っている場合がある。

この筋肉痕は中軸を左右から囲むようなかたちで頭から尻尾まで連なっている。のみならず、化石の内側をみると、この筋肉痕に沿うようなかたちで顆粒状の装飾がみられる。これらはなにを意味するか。

ここでちょっと飛躍があるような気がするのですが、椎野先生は現生節足動物との比較をもとに、ここ、つまり側葉内部の中軸よりのところに、呼吸領域すなわちエラがあったのではないか、と指摘されます。従来は二枝型付属肢の片方(鰓脚)で呼吸が行われていたとされてきましたが、この鰓脚をくわしく調べてみると、エラの役割を果たすにはやや硬すぎるらしいのです。

じゃあ鰓脚の役目は何だったの? という疑問が出てきますが、この点については説明がなかったように思います。私は、鰓脚はやっぱり呼吸器官だったと思いたい。ただし、たとえば防御姿勢(ダンゴムシのように丸まった姿勢)をとったとき、この状態ではとても鰓脚などは動かせないので、それじゃいったいどうやって呼吸していたのか、という疑問が出てきます。補助的な呼吸器官がないと窒息死してしまうんじゃないの、とはだれしも思うところでしょう。

椎野先生によればエラは側葉内側にあったらしいのですが、そのエラに外側からも海水を送り込む、なにか微細な孔が外殻上にあったんじゃないか、というのは私の想像です。ハルペス類にはこういう想像に根拠をあたえそうな、外殻上の孔が保存されています。また、プティコパリアやハルピデスの頭部には genal caeca と呼ばれる装飾(適当な訳語がないので仮に「盲管叢」と呼んでおきますが)があって、これが呼吸に用いられていたんじゃないか、という説もあるようです。

以上が、椎野先生の「内面の平滑化」のお話の骨子と、それについての私の疑問との要約ですが、たぶん分りにくいことと思います。いちばん分りにくいのは、イレヌス類の外殻の内側が平滑だったとして、そのことが進化のどういった局面に対応するものだったのか、またその適応がいかなる「機能美」をもたらしたのか、という点だと思いますが、こういった点についてはあいまいなまま話が終ってしまいました。

さて次は「外面の平滑化」のお話ですが、それはまた明日書くことにします。