読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ホモテルス・ブロミデンシス

ロシア産のアサフス類にはあまり興味のない私だが、これが北米産のイソテルスの仲間となると話は違ってくる。イソテルスを見かけるといつもはっとして頭に血がのぼる。どうしてなのか自分でもよく分らない。いったいどんな微妙な違いがロシア産と北米産とに対する関心の差を生み出しているんだろうか。

オクラホマで産するイソテルスの仲間にホモテルスというのがある。今回手に入れたのはそのホモテルス・ブロミデンシスというもので、名前からもわかるように、オクラホマのブロマイド層というオルドビス紀の地層から産出する。


Homotelus bromidensis


この種はかたまって産出することが多いようで、複数の個体がのった標本、いわゆるマルチプレートをよく見かける。そういうものにも興味はあるが、置き場所がないうえに値段が高いとあっては躊躇せざるをえない。今回のものはそういうマルチプレートから剥がれ落ちた一個体だろうか。裏側をみると別個体の一部がさかさまにへばりついていて、いかにでたらめに密集していたかが分る。

このブロマイド層から出る三葉虫は、保存がいいと同時によくないという特色をもつ。保存がいいというのは、外殻がみごとにカルサイトに置き換っているからで、ロシア産のとよく似た色合い、質感をもっている。一方、保存がよくないというのは、おそらく水流の影響によるものだと思うが、関節の継ぎ目がはずれていたり、殻の一部が剥がれていたりして、そのためたいていの個体は形が崩れかけているようにみえる。じっさい、ネットで検索してみても、ホモテルスの完全無欠な標本というのはほとんど見当らない。クリーム色の母岩の上によれよれの個体が犇めき合っている、というのがこの種の主な産状のようだ。もし整然とした標本があるとしたら、おそらくかなり補修の手が入っているとみていいだろう。

今回のものもよれよれを通り越してぼろぼろだが、ボヘミア産の三葉虫を通ってきたものにとってはこの程度のぼろさは許容範囲内だ。アクリルケースにラベルといっしょに入れてやったらどうだろう、と思ってやってみたが、とくにありがたみが増すというわけではなさそうだ。



ホモテルスの顔を見ていると、ふとマルヴィネラを思い出した。マルヴィネラはもう手放してしまったが、まるで慈母のような柔和な顔をしていた。ホモテルスのほうは、育ちのいいお坊ちゃまといった感じだ。オクラホマ三葉虫は、同種でも他の産地のものと比べて小型で、上品に見えるのが多いような気がする。


     * * *


ハンセンの本を読んで以来、オクラホマは私には特別に愛着のある化石産地となっている。こちらのページオクラホマで産する三葉虫の一覧表が載っているが、こうしてみるとずいぶんたくさんの種類の三葉虫が出るようだ。そういっても、おそらくそのうちのほとんどは断片のようなもので、完全体で産するのはごく一部の種類に限られるだろう。オクラホマ産でいちばん欲しいのはすでに手に入れてしまったので、あとは気の向くまま、懐具合も考慮のうえ、ゆるゆると集めることにしよう。

ところで今回の標本はオクラホマのコール郡で産出したとラベルに書いてあるのだが、これはどうなのか。コール郡といえばブラックキャットマウンテン、すなわちデボン紀の地層が露出している場所で、ブロマイド層とは関係がない。産地データなんていうのは、よっぽど信用できるところから入手するのでないかぎり当てにならないもので、参考程度に見ておくのがいいのかもしれない。