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ファボシテスの一種

これは床板サンゴの仲間で、ファボシテスとは favose + ites で「ハチの巣の石」の意、日本でも同様にハチノスサンゴと呼ばれている。今回手に入れたものは、裏側をみると床板が確認できるし、サンゴ体が同心円を描きながら層状に成長していく様子もうかがえるので、まずまずいい標本といえるのではないか。


Favosites sp.



一ヶ所、疣のようにみえるのは小さいヘリオリテス(日石サンゴ)で、もしかしたらここを拠点として棲み処を乗っ取るつもりだったのかもしれない。われわれはサンゴ礁といえば南洋の楽園のようなイメージをもっているけれども、そこはじつは激しい生存競争が行われる戦場でもあったようだ。

「自然の条件はきびしいものである。……自分が生きて行くためには、互いに牽制したり、ときには殺し合ったりもする。サンゴ礁での生活は、それがもっともひどい場合であることはいうまでもない。たくさんの生物が、せまいところにひしめき合って大きくなるのだから、当然のことといえる。早く成長するものは次第に他をおおいかくしてしまうし、波の力などでこわされたサンゴなどの上には、たちまち他のサンゴなどが付着して包みこんでしまう。……こうして、サンゴ礁はいろいろな生物を土台にしながら次第に大きくなってゆく。からみ合った生物の遺骸の間には、これもまたうちくだかれた生物の殻のかけらがいっぱいにつまって、ついには塊状の石灰岩を構成するにいたるのである」(保育社の「原色化石図鑑」より)



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生物の遺骸から成っているせいかどうか知らないが、石灰岩には特有の匂いがある。はじめてこれに気づいたのは中国のコウモリ石を手に入れたときだ。とにかくなんともいえず臭いので、たぶん中国産だから臭いんだろう、と勝手な解釈をして済ませていた。

それからだいぶ経って、オクラホマ三葉虫を手に入れたとき、その母岩がコウモリ石そっくりの匂いを放っているのに気づいて、上記の解釈がまったく偏見にみちたものであったことを悟ったのである。中国産だから臭いのではなく、石灰岩は世界のどこにあっても臭いのだ。もちろん程度の差はある。むせかえるほど強烈なものから、ほとんど無臭のものまで。

はじめは嫌いだったこの石灰岩の匂いも、いまではそれほど気にならなくなった。それどころか、一種の親密さすら感じるようになってきている。世の化石好きがこの匂いをどう思っているか、ちょっと知りたいものだ。