ハリシテスの一種

これもやはり床板サンゴの仲間で、名前の由来は halysis + ites で「鎖の石」、和名をクサリサンゴという。なぜ鎖なのかは、現物をみれば一目瞭然だろう。

Halysites sp.


ハチノスサンゴを見て気持わるいと思う人はあまりいないと思うが、このクサリサンゴはどうだろう、なんとなく嫌悪感を催させるものがありはしないだろうか。

距離をおいて見ると、迷路のように入り組んだ万里の長城を上空から眺めているようでもあり、至近距離で見ると連なった細菌のクローズアップのようでもある。いずれにしてもじつに奇妙な眺めで、うちにある化石サンゴのうちではひときわ異彩を放っている。

ハリシテスは日本ではおそらくハリサイテスという呼び名のほうが通りがいいのではないか。私が最初に知ったのもハリサイテスのほうで、なんてカッコいい名前だろう、と感心していた。そして本種を手に入れたとき、名前に負けないそのカッコよさに打たれたのである。こういうものが千円そこそこで手に入るのが信じられなかった。

そんなわけでゴトランドではありきたりな本種だが、日本ではシルル紀の地層そのものがなかなか見つからなかったこともあって、長らく幻のサンゴになっていたらしい。突破口が開かれたのは1936年のこと、一人の若い地質学者が北上山地で採集して持ち帰った標本がそのきっかけになったのだった。

東北大学理学部地質学古生物学教室の矢部長克教授の一室。教授の前に、杉山敏郎氏は石灰岩の薄片を大事そうにとり出した。北上の谷からの採集品を顕微鏡下で調べていた彼は、その中に思いもかけぬ化石を見出し、今教授の鑑定を仰ぎにやってきたのであった。鋭い目が薄片の上を一べつする。"間違いない。ハリシテスだ。" かつてヨーロッパの代表的なクサリサンゴ類を詳しく研究されていた教授の言葉は短かったが、確信とよろこびに満ちていた。日本最初の、しかも最古の化石、シルル紀の化石が発見されたのである」(保育社の「原色化石図鑑」より)

なかなか感動的なエピソードではありませんか。「原色化石図鑑」は随処にこういうおもしろいエピソードが書いてあって、化石好きにはたまらない一本となっている。