フラギスクトゥム・グレバレ

一目見て「これは……」と息をのんだ。なんぼなんでもかわいすぎるでしょう。いままでかわいい三葉虫といえばシュードキベレにとどめをさすと思っていたが、なんの、こっちも負けていない。ベージュ色で保存されているのも優雅な趣をかもし出している。三葉虫嫌いの女性もこれを見たら「あらやだかわいい」と笑みをもらすのではないか。


Fragiscutum glebale



というわけで、フラギスクトゥムかわいいよフラギスクトゥム、で終りにしてもいいのだが、例によって少々駄弁を弄することにする。

フラギスクトゥムはエンクリヌルス科に属する三葉虫で、この科の特徴としてはイチゴ頭、つまり頭部が粗い粒々で覆われていることがあげられる。そういう観点からすれば、本種における粒々はそれほど目立つものではない。よくよく注意してみてやっと認められる程度で、この粒々のまろやかさが、エンクリヌルス科に通有の病的な印象を和らげているともいえる。

エンクリヌルス類を指して病的とはけしからん、とおっしゃる向きもあるだろう。しかし、この科の代表種である英国のバリゾーマにつけられた種名ヴァリオラリス(variolaris)は、天然痘や痘瘡を意味するラテン語 variola に由来している。けっして私だけがそう感じているわけではないのである。

もっともある種の人間には、この病的な要素がたまらなく魅力的なんだが……

エンクリヌルス科のもうひとつの特徴に、丸く飛び出た大きな眼があげられる。これは本種においてもはっきりと認められる。このまるい眼がかわいさを引き立たせていることはいうまでもない。

頭部の粒々と飛び出た眼とを考え合せると、エンクリヌルス類は体を泥に埋めて、頭だけ海底表面に出して獲物を窺っていたのではないか。頭部の粒々はまわりの砂利や砂に紛れるのに好都合だし、眼が飛び出ていればそれだけ広い視野を確保できたと思われるからだ。この種類の化石は体を曲げているのが多いが、それは泥の中でとりうるいちばんリラックスした姿勢だったためではないかと思っている。やはり泥にもぐる習性のあったイレヌス類の化石における姿勢なども参考になるかもしれない。

最後に名前の由来を書いておくと、Fragiscutum は fragi + scutum で「脆い楯」、glebale は「土くれの」という意味らしい*1。種名は glebalis と書かれることもあるが、scutum は中性名詞なので、glebale とするほうが正しいように思う。


     * * *


オクラホマのヘンリーハウス層(シルル系)から産する三葉虫は、本種とカリメネ以外にもないわけではないけれども、まともな状態で手に入るものは少ない。ケイルルス、ダルマニテス、コソヴォペルティス、リカス、アナナスピスといった種類の一部もしくは破片が散らばっている、というのが一般的な産状で、もとより商品として出せるものではなく、現地のアマチュアが採取したものをなんらかの方法で譲ってもらうよりほか手はないだろう。

*1:全体では「土くれでできた脆い楯」?