ドリコハルペス・プロクリヴァ

オクラホマのブロマイド層(オルドビス系)から出たもの。いかにもオクラホマといった感じの母岩に、この産地特有の色で化石化している。本体以外にもコケムシや腕足類が同居していて、母岩の厚みもそこそこあるので、小さいながらも存在感のある標本になっている。


Dolichoharpes procliva


ご覧のとおり部分化石だが、ハルペス類についてはもう部分化石でいいんじゃないか、と思うようになった。というのも、この種類のものの特徴はほとんど頭部にあるので、それさえちゃんと保存されていればとくに問題はない。もちろんペラペラでも胴体があったほうがいいには違いないが、胴体つきのドリコハルペスなんてほとんど存在しないし、たとえあったとしても高くて手が出せないだろう。

さてハルペスといえば鍔の周辺にあいた孔だが、本種ではこの孔が鍔の周囲はいうに及ばず、眼の上さらには頭鞍にまで広がっている。頭部のいたるところ孔だらけなのである。ハルペス類やトリヌクレウス類に特徴的なこれらの孔の用途はといえば、水抜き説が一般的で、私もそれで合っていると思っていたが、頭全体に広がった孔の説明としては、水抜き説だけでは不十分なのではないか。



三葉虫にはハルペス類以外にも細かい孔が無数にあいている種類があって、それらの孔は繊毛つまり感覚器の毛根だったのではないかという説がある。これも考慮にいれて折衷案を出すと、ドリコハルペスは鍔周辺の孔で水を濾しつつ、頭の上に生えた繊毛でまわりの環境の変化を窺っていた、ということになる。

孔についてあとひとつ書いておきたいことがあるが、めんどくさい話は読む方も億劫だろうから省略しよう。いずれまたなにかの折にでも触れられればと思う。

あと、例によって名前の詮索をしておくと、ドリコハルペスのドリコ(dolicho-)とは「長い」という意味らしい。何が長いかとえば、おそらく鍔の部分だろう。完全な標本をみると、鍔の先端が尾部を超えて延びていて、胴がすっぽり鍔に収まったような格好になっている。

種名のプロクリヴァ(procliva)のほうは「斜めになった」という意味のようだ。何が斜めになっているかといえば、やはり鍔の部分ではないかと思う。エオハルペスの鍔はほぼ水平だし、(アリスト)ハルペスのそれはほぼ垂直だから、その中間の傾き具合を「斜め」と表現しているのではないか、と。

ハルペス(Harpes)という名前は楽器のハープからとったと思っている人が多いと思うが、中国では「鎌虫」と訳されているように、この場合の harpe はどうやら草を刈る鎌のことらしい。鍔の部分の形状を鎌に見立てたのだろうか。しかしハープ説もいちがいに退けるべきではないと思う。というのも、古代のハープの一種であるリラをみると、ハルペスとの形態上の類似は一目瞭然なのだから。




(追記、2017/1/8)
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