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Russian Trilobites

「ボエダスピスいかーっすかぁ、お安くしときますよー」

そんな声がきこえてくる日曜の昼下り。

──いや、私は要らんね。あんまり好みじゃないんで。

これは本音だ。負け惜しみでいってるのではない。どういうわけかロシアン三葉虫は私の心に迫ってこないのである。

たしかに見ればはっとするし、きれいだと思う。が、その先まで興味が持続しないのだ。

これは自分でもふしぎでならないし、三葉虫愛好家としてどこか欠陥があるんじゃないかとも思うが、じつは私よりさらに極端な人がいる。それは「三葉虫 Trilobites」の著者、リカルド・レヴィ=セッティだ。

彼の本にはあれだけたくさんの標本が集められていながら、ロシアン三葉虫は一個も入っていない。アサフスやプリオメラはあることはあるが、ロシアのものではなくスウェーデンのものが紹介されている。ふつう三葉虫の本なら必ず載っているアサフス・コワレフスキイも入っていない。ロシアでしか産出しないからわざと外したとしか思えない。

──なんでロシアの標本がひとつも入ってないんですか?
──ロシアの標本? あんなものは標本じゃなくてただの装飾品だよ。

そういう答えが返ってきてもおかしくないような、徹底した排除の姿勢を貫いているのである。これはさすがの私もちょっとやりすぎではないかと思う。

ロシアのペテルブルク付近は19世紀の初めから三葉虫の採掘が行われていて、その意味では歴史的な産地といってもよく、けっして無視できる存在ではないのだ。にもかかわらず、レヴィ=セッティのこの仕打ちは……

まあ自分の著作になにを入れようが外そうが著者の勝手だが、やはり少しは敬意を払ってもいいんじゃないか、と思うのですよ。……