クリプトリトイデス・ウルリヒ

前のロベルギア・デッケリと同じくオクラホマヴィオラ層(オルドビス系)から出たもの。クリプトリトイデスという名前は、おそらく「クリプトリトゥス(Cryptolithus)に似たもの」という意味だと思うが、トリヌクレウス科に属する三葉虫はどれもこれもじつによく似ていて、ことさら「~に似ている」といわれてもぴんとこない。極端にいえば、すべてがすべてに似ているのがトリヌクレウス類の特徴(?)なのである。


Cryptolithoides ulrichi


ロベルギアは塗装したような白さだったが、今回の標本の白さはそれとはちょっと違って、なんというか大理石のような質感をもっている。そして鍔の部分に整然と並んだ孔はつねにすでにすばらしい。ただしこれらは至近距離で眺めてそうなので、ちょっとでも距離をおいて照明を落すと、細部は消え去って輪郭ごと母岩のなかに紛れこんでしまう。これは本種にかぎらず、トリヌクレウス類全般にいえることで、モロッコ産のいくつかの種を除けば、たいていのものは観賞には不向きなのだ。

トリヌクレウス類の大部分は頬棘をもっているが、それらが保存された標本はほとんどない。なぜかというと、化石として残されるものの大半が脱皮殻だからではないかと思う。この種類のものの顔線は、ふつうの三葉虫のように頭部の左右にあるのではなくて、前縁に沿って頭部を上下に分けるようなかたちでついている。そして脱皮のさいにはその顔線が開いて、ちょうど閉じたコンパクトを開くような具合に頭部が上下に分かれる。そこからソフトシェルの三葉虫が這って出てくるのだが、頬棘のついている下のほうの部分(自在頬?)がそのさい分離・脱落するので、残った上のほうの頭部には棘は残らないのである。

われわれが手にする三葉虫の標本は、思っている以上に脱皮殻の化石が多いのではないか。たとえばなんとかギガス、ギガンテウス、マキシムスといった、「巨大な」という意味の名をもつ三葉虫たち。これらの標本が手のひらサイズであることに違和感をもたない人がいるだろうか。しかしこれもそれらが脱皮殻の化石であると考えれば納得がゆく。どんなに大きい種類でも子供のころは小さいので、ひとつの個体が生涯に残す脱皮殻がその脱皮の数だけ存在することを考えると、当然大きいものより小さいもののほうが数が多くなる。それに外敵に襲われるなどして、じゅうぶんな成長段階に達しない前に死んでしまう個体も多いだろう。なんとかギガスの化石が小さいものばかりであることと、それが最大50cmに達することとはなんら矛盾しないのである。

また、自在頬が揃っているからといって、それが脱皮殻でないとはいいきれない。というのも、ある種においては顔線が開いて三葉虫が抜け出したあと、内部組織の作用で自在頬が元通り塞いでしまう場合もあるらしいから。

ちょっと脱線気味なので、あとひとつだけ書いて終りにしよう。トリヌクレウス類の標本には鍔の部分に孔ではなく鋲を打ったように凸が並んでいるものがあるが、あれは鍔の外殻がはがれたあとの、母岩に記された印象だと考えるのが妥当だろう。鍔の裏側にも孔(凹)があいているので、それがはがれたあとの印象が凸なのになんのふしぎもない。

換言すれば、この手の(つまり凸型の)標本は脱皮殻ではない、ということになる。裏側の部分が残らなければ、それの印象が母岩に刻まれることもないだろうからだ。裏側が残っているということは、それに付随する頬棘もまた保存される確率が高いといことで、じっさい鍔の部分が凸になっている標本にはよく頬棘が残ったものが多いように思う。