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アンフィトリオン・ラディアンスふたたび

これは風邪で精神的にも参っているときに届いた標本で、そのときは「こんなもの買わなきゃよかった」と思った。どうも体力とともに三葉虫全般に対する関心も低下していたようだ。体調が回復した今、あらためて取り出して眺めてみると、やっぱりこれは買っておいてよかったと思う。クシャクシャした感じの標本だから、うまく照明をあててやらないと三葉虫には見えないが、これ自体がなんだか化け物じみているところが私にはおもしろい。


Amphitryon radians


本種は以前にも部分化石を入手していて、それについてはこのブログにも記事を書いた(→アンフィトリオン・ラディアンス - ファコプスの館 -La Maison de Phacops)。似たような話を蒸し返すのも何なので、今回は本種の「記載」をシュナイドルの本("BOHEMIAN TRILOBITES")から紹介しよう。「記載」というのは、化石に興味をもった人には必ず目に触れる言葉だと思うが、その実際は意外と知らない人が多いのではないか。


「矮尾型、外殻は薄く、適度のふくらみをもつ、全体の輪郭は卵型。平均15~40mm。頭部は背面からみると半円形で、幅広く長い頬棘は第六胸節にまで達する。頭鞍は平らで、前部中央に舌状突起があり、頭部辺縁へゆるやかに下っている。舌状突起を除けば、頭鞍の輪郭は横倒しの楕円形。頭鞍を囲む溝は非常に狭いが明確に刻まれている。三対の側頭鞍溝は頭鞍の縁には達していない。S1 はもっとも長く、前方に急カーブを描く。S2 と S3 はより短く、同じように前方にカーブしている。L1 から L3 までの縦の幅はほぼ同じ。前頭鞍瘤は舌状突起のため縦方向にやや短くなっている。舌状突起の両側はほぼ平行。額溝は不明瞭。額環は縦に広く、やや丸みを帯びていて、横幅は頭鞍よりも短い。固定頬は極端に狭く、細い瞼翼と、その後ろにあって額環と隣り合う小さい三角形の固定頬領域にとどまっている。瞼翼は頭鞍をぐるりと取り囲み、鎌のような形の細長い帯になっていて、額環に近いほど幅が広く、頭鞍前部の舌状突起に近づくにつれて狭くなる。自在頬は平たく大きい縁をもち、ずっと延びた先には頑丈な頬棘がある。眼は非常に低い眼窩に収まっていて、眼の表面も非常に狭く、ほぼ垂直に切り立ち、そこに数千の個眼が集まっている。顔線は後頬型で、γ-εは極端に長く、ε-ωは非常に短くなっており、頭部後縁と急角度をなして分れている。眼より前のほうの顔線は一点に収斂している。自在頬の重複板は非常に幅広く、その延長は実質的に背面からみた自在頬の全域に及ぶ。ハイポストマはほぼ正方形で、広い中央部をもち、中央の溝にははっきりと maculae が認められる。前方の翼は短く、丸まっている。胸部は11の胸節からなる。軸部は適度に盛り上がり、非常に幅広いが、後方へ行くにつれて細くなる。軸溝は深い。軸環はすっきりしていて、縦方向にほぼ平坦。肋部も平坦。側肋は短く、肋溝は非常に幅が広く底が平らになっていて、前と後ろの側肋帯はひどく縮小されている。側肋は漸次後方へカーブし、第一胸節ではあまり目立たないが、第十一胸節では(尾部の上端をはさんで)ほとんどまっすぐ後方に延びている。肋部の重複板は幅広く、内側の端はほぼ軸溝に達する。尾部は縦長で平たく、縦に短い盛り上がった中軸には軸環がひとつ、それに尻尾がついている。中軸の輪郭はほぼ三角形で、終端部は丸い。平らな肋部には二対の畝が認められる。肋間の溝は線状で、縦方向に走り、後方の尾部の先端にまで達している。肋溝は明らかに最初の畝のところで止まっている。畝の先は尖っていて、内側の対になった畝は外側のより短い。尾部の重複板は幅広く──内側の端はほとんど軸溝にまで達する。胸部と尾部の外殻を覆うようにして、細かい条線が水平もしくは斜めに走っている」


専門用語だらけで、文体は無味乾燥で、三葉虫に、いや本種に興味のない人には読むに堪えないだろう。こういうものを読んで興趣をおぼえるようになったら、病状もかなり進んでいるとみていい。

文中にある S1 とか L1 とかいうのは頭鞍の溝や隆起を指している。興味のある人は三葉虫本やネットで調べてください。γ、ε、ωは顔線の通過点を示している。Macula(e) はうまく訳せないのでそのままにしておいたが、ハイポストマにある小さい対になった突起のようだ。これは感覚器官で、三葉虫はこれを使って体の下のほうを見ていた(つまり腹部についた眼!)という説がある。遊泳性の三葉虫特有のものだと思う。