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コテコプスの一種

机の上が化石置場と化しつつあることはこの前書いたが、そういつまでも化石を並べて遊んでいるわけにもいかないので、元通り片づけることにした。下の画像はその直前の状態。



右のほうに見えているのはブンデンバッハのファコプスで、産地にひかれて購入したものだが、どうも期待していたのとはちがう。まず第一に黄鉄鉱化していない。初めからそうだったのか、それとも長年月のうちに変質してしまったのだろうか? この標本はおそらく1970年代に短期間開かれた採掘場で採れたもので、当時そこを訪れた旅行者に土産物として売られていたものらしい。ということは、すでに40年ほども前の標本なので、その間に黄鉄鉱が変質もしくは風化したことはじゅうぶんに考えられる。この標本にこびりついている、赤みがかった滓みたいなものは、黄鉄鉱のなれのはての褐鉄鉱だろうか。

次に、標本の全体が妙につるつるしていて、ごつごつしたところやざらざらしたところがまったくない。なんというか、のっぺりした質感なのである。のっぺりしているといえば、昔ののっぺり型の色男の形容に「油壷から出たよな男」というのがあるが、今回のものは油壷ならぬ重油タンクから浮びあがった生き物がそのまま化石化したような趣だ。ファコプスにはつきものの、頭鞍の粒々も見当らず、すっぺりとなめらかになっている。

ファコプス類特有の複眼はいちおう確認できるが、瞼翼の下のほんの一部が露出しているのみで、大部分は剖出されずに母岩の下に隠れている。これもたんに隠れているだけなのか、溶けてなくなっているのかわからない。がんばって掘り下げてみてもなにも出てこない公算が高いように思う。


Chotecops sp.


ブンデンバッハの化石を紹介した本などに出ている標本と比べると、あまりの違いに愕然とするが、まあ書籍に出るような標本は超一流のものなので、どだい比較するのがまちがっているのかもしれない。



違いといえば、これがファコプスの一種であるのは間違いないとして、はたしてコテコプス・フェルディナンディ(Chotecops ferdinandi)だろうか、それともべつの種類なのだろうか。見たところ、ボヘミアで出るリードプス(Reedops cephalotes)にもよく似ているように思うのだが……



というわけで、いろいろと問題の多い化石ではあるが、フンスリュック粘板岩の質感にはやはり抗しがたい魅力がある。この標本がたんなる土産物レベルを超えて、他の化石と比べても引けをとらないだけの存在感をもっているとすれば、それはひとえに産地の石質の魅力によるものだ。