フランスのオルドビス紀の三葉虫三種

私には珍しくまとめ買いをした。一括で千円そこそこだが、送料は三千円を超えているという、得なのか損なのかよく分らない買い物だった。



まあ値段はともかくとして、前から興味があったフランスのオルドビス紀三葉虫を手に入れられたのは幸いだ。内訳はエクティレヌス・ギガンテウスが2個、ネセウレトゥス・トリスタニが4個、アサフス種が2個、いずれも部分化石かそれに毛の生えたようなもの。産地はブルターニュのイル・エ・ヴィレーヌというところらしい。

まずエクティレヌスから順番に見ていこう。

  • Ectillaenus giganteus


エクティレヌスはボヘミアのE.カッツェリ、ポルトガルのE.ギガンテウスをすでに入手している。今回のフランスのものは、両者を足して二で割ったものにモロッコ風味をつけ加えた感じだ。大きいほうの個体の質感などは、モロッコのカンブリア紀の巨大三葉虫、たとえばカンブロパラスなどに酷似している。小さいほうは胸節にテラスライン(クチクラ模様)が入っていて、おんぼろながら目を楽しませてくれる。



母岩は石灰岩というより砂岩か頁岩のようで、非常に硬くて重い。匂いはほどんどないし、ぼろぼろ崩れてくることもないので扱いやすいが、見る人によってはゴミ寸前、あるいはゴミそのものだろう。私はといえば、大きいほうの色合いや質感はかなり好みで、部分化石ながらシックな味わいがあると思う。


ボヘミアのE.カッツェリの上半身を接いでみたところ


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  • Neseuretus tristani

これが今回の目玉だ。ブロンニヤールの分類でトリスタンのカリメネ(Calymène de Tristan)と呼ばれているもの。彼がこれをカリメネに分類したのは正しくて、こんにちでもそれは有効だ。本種はフランスのみならず、ポルトガルやスペイン、さらにモロッコでも産する。同時代のエクティレヌスと同じく、その棲息域は広範囲に及んでいたようだ。

保存状態のよしあしでいえば、ポルトガル産あたりがいちばん無難なようだが、フランス産に手を出したのにはわけがある。それはなによりもまずブロンニヤールが記載しているのがフランス産であること、それからこの産地特有の変形がかねてから私の注意を惹いていたことなど。

変形その一:ねじれ

ねじれというのは厳密には正しくない。ねじれているわけではなく、斜め方向に力が加わった結果、体節がネジのようにギリギリ巻いてみえるというだけのこと。ここにあげたふたつの標本など、モロッコのフレキシカリメネにも劣るという人がいるかもしれない。まあそれはそうとして、この体節のごつごつした感じなどは、戦車のキャタピラみたいでなかなかカッコいい。



変形その二:引き延ばし

これは縦方向に引き延ばされたという意味。そのぶん横幅が狭くなって、痩せ枯れた(?)細長い姿で保存されている。私にはどうもこの細長い姿がいちばんネセウレトゥスらしく思われる。じっさいはふつうのカリメネ並みのプロポーションだったんだろうけど、それではあまりおもしろみがない。

今回の標本は真っ黒で、炭のような質感だ。引き延ばされ、斜めに圧縮を受けているが、いちおう嘴のような突起や、頭鞍のこぶ、それに眼の痕跡なども確認でき、ほぼ完全体とみなしてさしつかえない。

変形その三:圧縮

これとは上とは反対に、縦方向に圧縮されたもの。頭部も思いきりつぶれて何が何かわかりはしない。さすがに単独ではきびしいが、上の引き延ばされた標本と並べると、ちょっとした対照の妙をなす。


引き延ばしと圧縮の例


あと余談だが、本種と似たものに、コルポコリフェとサルテロコリフェがある。いずれもカリメネの仲間で、慣れていない人には区別がつかないと思うが、見分け方はそれほどむつかしくない(基本的には)。こちらのページに載っているから、興味のある方はどうぞ。

要点だけまとめておくと──

コルポコリフェ:頭の縁は丸く、先が「への字」になり、尾部の両サイドに凹みがあるが、肋はなく平坦。
サルテロコリフェ:頭の先がやや尖り、前者と同じく尾部の両サイドに凹みがあって、肋もある。
ネセウレトゥス:頭の先が尖って嘴状になり、尾部は凹みなく、一般的なカリメネ型。

こんなところでどうだろう。


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  • Asaphus sp.


最後はアサフスだが、いったいこれは何という種類だろうか。フランスの代表的なアサフス、たとえばオギギヌスやノビリアサフスではなさそうだ。そうかといって他にこれと思い当るものもなく、とりあえずアサフスの一種としておくほかない。もしかしたらアサフスではなくて、イレヌスの一種かもしれない。



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というわけで、個別にとりあげて見ていったが、じっさいのところ、同定などにはあまり気を使わず、ひとつの箱にごちゃまぜにしておくほうがこれらの標本にはふさわしい。こうしておけば、いつか我楽多が宝物に変貌するときがくるかもしれない。