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アサフス・エキスパンスス

今年いっぱいはロシア三葉虫には手を出さない、と決めていたが、とうとうその禁を破ってしまった!

6月から始めた禁煙のおかげで、使わずに済んだタバコ代が4万円を超えてきたので、ここらでひとつ自分へのご褒美を、という、だれしも陥りがちな誘惑に抗することができなかったのがひとつ、それからブロンニヤール所有のアサフスがロシア産であることを知って、とくにスウェーデン産にこだわらなくても、ロシア産でいいんじゃね? という気になったことがひとつ。

ブロンニヤールの標本は、サンクトペテルブルク近郊のコシェレワ(Koschelewa)というところで出たものらしいが、このコシェレワがどこにあるのかわからない。知ってる人がいたら教えてください。

まあそんなわけで手に入れたアサフス・エキスパンスス。数あるアサフスのうちでも模式種といえばこのエキスパンススを指すらしい。記載は1821年、ヴァーレンベリによる。ただし、ときどき Asaphus (Asaphus) expansus (Linné) という表記も見かける。もしリンネがヴァーレンベリに先んじて本種を記載しているのなら、それはそれで話としてはおもしろいのだが、じっさいはどうだろう?


Asaphus expansus




アサフスの画像などはネットに溢れ返っているから、ここで出してみてもあまり新味はないだろう。ましてやエキスパンススはアサフスのうちでもいちばん地味で一般的なものだからなおさらだ。しかし、私のようにロシア三葉虫といえばプリオメラしか知らないものにとって、今回の標本はちょっとした驚異である。うまく言葉にできないが、その存在が化石の域を超えている、といえばいいか。

私としても、できれば存在なんていう抽象的であいまいな言葉は使いたくない。もっと的確に、ここがすごいんだといいたいのだが、それができないもどかしさ……

アサフスの、というよりロシア三葉虫の魅力のあり方が伝われば、という気持で、手持ちの標本と並べた画像をあげておこう。



     * * *


ところでロシアのアサフスに関して、いったいどれほどの種類があって、どうやって区別しているのかふしぎに思ったことはないだろうか。いちおう信頼すべき情報を下に書いておくから、興味のある方はご覧ください。

まず頭部の輪郭と顔線とに注目して図を眺めてほしい。ここで A とか B とかあるのがどの部分の長さなのか、図をよく見て確認すること。


  • 第一段階

眼の長さと、眼の後ろの部分の長さとの比すなわち B:C を考えて、

B:C < 1 を 1A とし、
B:C ≒ 1 を 1B とし、
B:C > 1 を 1C とすると、

ここで三つのグループ(1A, 1B, 1C)ができあがる。すべてのアサフスはこのグループのどれかに属するだろう。

  • 第二段階

次に眼より前の部分と、頭蓋全体の長さとの比すなわち A:L を考えて、

A:L > 1:2 を 2A とし、
A:L ≒ 1:2 を 2B とし、
A:L < 1:2 を 2C とすると、

また別のグループ(2A, 2B, 2C)ができあがる。第一段階で三つに分けたアサフスを、さらにこの基準でグループ分けすることができる。

  • 第三段階

次は顔線の幅と眼の幅との比すなわち D:F を考えて、

D:F < 1 を 3A とし、
D:F ≒ 1 を 3B とし、
D:F > 1 を 3C とすると、

眼の離れぐあいを基準にしたグループ(3A, 3B, 3C)ができあがる。

  • 第四段階

最後に頭部の縦と横の比すなわち L:K を考える。
アサフス全体におけるこの比の平均は 0.514 である。
そこで、

L:K < 0.514 を 4A とし、
L:K ≒ 0.514 を 4B とし、
L:K > 0.514 を 4C とすると、

頭部の長さを基準とするグループ(4A, 4B, 4C)ができあがる。

この四つのグループ分けを順番にアサフス属に適用して、結果だけを示せば次のようになる(種名のみ記した)。

1A - 2B - 3A - 4A (cornutus, intermedius)
1A - 2B - 3A - 4B (lamanskii)
1A - 2B - 3A - 4C (lepidurus, raniceps)


1A - 2B - 3B (kowalewskii)


1A - 2C - 3A - 4A (expansus)
1A - 2C - 3A - 4B (punctatus)

1B - 2A - 3A - 4C (acumitatus, broeggeri, major)
1B - 2A - 3B - 4A (laevissimus)
1B - 2A - 3B - 4C (plautini)


1B - 2B - 3A (knyrkoi)
1B - 2B - 3B (eichwaldi)


1B - 2C - 3A - 4A (heckeri, pachyophthalmus)
1B - 2C - 3A - 4C (striatus)

1C - 2A - 3A - 4A (itferensis, latus)
1C - 2A - 3A - 4B (jevensis)
1C - 2A - 3A - 4C (kegelensis)


1C - 2A - 3B - 4B (nieszkowskii)
1C - 2A - 3B - 4C (ornatus)


1C - 2B - 3A - 4A (holmi, kotlukovi)


1C - 2B - 3B (minor)


1C - 2C (ingrianus)


これで見ると、今回のエキスパンススは

1.眼の長さがその後ろの部分よりも短く、
2.眼の前の部分が頭蓋全体の半分以下で、
3.眼の幅が顔線の幅より広く、
4.頭部は縦方向に短い

ということになるが、実物を見たら確かにそのようになっている。


     * * *


なお、同じグループに属する複数の種の区別については、まだそこまで勉強が進んでいないので、分り次第追記することにします。