三葉虫の卵、デンドライト

MFの出品がなかなか終らない。それはそれでいいのだが、あれだけは出さずにいてくれよ、と思う。あれというのは私が目をつけている某化石で、あれを出されると非常に困るのである。というのも、見過ごすことができずにまたもや大枚はたく→来年のロシア進出計画が頓挫、という思わしくない流れになるからだ。

あれはそんなに安売りするものでも、売り急ぐものでもない。このさき何年カタログに載っているかは分らないが、末永く置いといてほしいものだ。もちろん定価で売れてしまえばそれまでだけどね。

というわけで、ロシア三葉虫の話の続き。この前買ったアサフスの標本の、白くならした母岩の上に、なにやら点々と小さい染みのようなものが散らばっている。ルーペで拡大してみると、色は黄土色、形はだいたい楕円形で、ゴマのようでもあれば籾殻のようでもある。先入観なしで考えれば、なにかの卵とみなすのがいちばん妥当だろう。なにかの卵?──アサフスの横に散らばってるのなら、それは三葉虫の卵ではないのか?

そこで三葉虫大全ともいうべきリチャード・フォーティの本を開いて、三葉虫の卵に関する記述を探すが、どうもそれらしいのはない。282ページに「原楯体が卵から孵化してくるのは疑いないが、三葉虫の卵の化石と称されているものについては異論が多い」とあるのみだ。

フォーティは三葉虫の眼については長々と述べているが、眼に対応すべき器官、すなわち脳については一言も語っていない。それはべつに語るに足らないと思っているわけではなくて、語るだけの材料がないからだろう。三葉虫の卵についても同様で、よほどの幸運に恵まれないと、卵なんていう柔らかいものが化石になって残ることはないし、たとえ丸い小さい粒が見つかったとしても、それがただちに三葉虫の卵である確証はどこにもない。孵してみなければ何の卵か分らないものについて、人は何を語ることができるだろうか。

いっぽう、バランド先生の図版集には三葉虫の卵なるものが三種類ほど載っている。そのうちいちばん小さいのが直径約0.5ミリで、アサフスの横に散らばっているのとだいたい同じ大きさだ。



先生がどういう理由でこれらを三葉虫の卵と断定したのかは不明だ。本文を読めば書いてあるのかもしれないが、その本文がネットのどこを探しても出てこない。これもふしぎなことで、先生の著作ボヘミア中央部のシルル系」は、そのすべてがネットで閲覧可能なのにもかかわらず、第一巻、つまり三葉虫に関する論文だけがどういうわけか電子化されていないのである。これを真っ先に電子化すべきでしょうが。弟子筋の人の書いた、だれも読みそうにない死後出版の論文なんぞは後回しでいいのだ。

話が逸れたが、この点々とした染み以外にも、アサフスの標本には奇妙な点がある。それはところどころにデンドライト(しのぶ石)が見られることだ。デンドライト自体はそんなに珍しいものではないが、三葉虫の頭部の裏側をこれがびっしりと覆いつくしているのは、まるで寄生虫にたかられた遺骸のようで気味がわるい。





裏側に生ずるのなら、表側に生じてもふしぎはないので、デンドライトで全身覆われたアサフスの標本もあるのかもしれない。

それで思い出したが、前に ebay で出品されていたカリメネが非常に印象的だったので、その画像を保存していた。カリメネ本体にコケムシが付着したもので、その本来のあり方とはべつに、病理学的ななにかを感じさせる標本だ。