イソコルス・シェーグレニ

本種は成体でも3㎜くらいにしかならないそうだ。3㎜といえばいかにも小さいが、しかしこの夏私の部屋にむやみと湧いたタバコシバンムシを計ってみたら、2㎜ほどだった。タバコシバンムシを知らない人は、ゴマ粒を思い浮べてほしい。2㎜でもそれなりに存在感のあることが分るだろう。3㎜ともなれば、単純に考えてその1.5倍の存在感があるはずなのだ。

というわけで購入したイソコルス・シェーグレニ(Isocolus sjoegreni)。じつはこれは前々から欲しかった。手に入るかぎりでの最小というのはちょっとした誘惑だ。なにも大きいばかりが能ではないので、小さいもののほうがじつは驚嘆に値する場合も少なくないのである。パスカルはダニのうちに有機体としての構造がすべて備わっているのに驚嘆し、そこに一箇の小宇宙を幻視している。今回の標本も、パスカルのダニほどではないにしろ、ルーペでみるその姿はじゅうぶんに驚異的だ。

まずは全体像。標本全体でも爪ほどの大きさしかない。どこになにがあるか、これだけでわかる人いますか?



もう少し大きくしてみよう。左側になにか虫のようなものが見えるでしょう?



さらに大きくした画像。ピンボケ気味なのが残念だが、こんな感じでちゃんと母岩に収まっている。右側の部分は埋もれていたのを掘り出してみた。石質はサクサクと軟らかく、カッターで突くとぽろぽろと崩れてくる。さらにクリーニングを進めることもできるが、このへんでやめにしておいた。クリーニングのしすぎは標本を台なしにすることが多いから。



本体は透明感のあるカルサイトに置き換っていて、その質感は非常に魅力的だ。のみならず、この小ささで微細な構造が鮮明に残っているのは驚くべきことに思われるのだが、どうか。

もちろん、ルーペなしではただのゴミにしかみえないので、いっしょについてきたインチケースに貼りつけておいた。こうでもしておかないと、不注意でゴミ箱に落してしまう可能性もあるのでね。




あと、本体まわりに散見する小さい丸い粒のようなものは、Fっしるさんのページによると、巻貝の一種らしい。たしかにいわれてみればそう見えないこともないけれども、0.1㎜というサイズなので、もしかしたらただの砂利なのかもしれない。

ネットで見られる本種の画像でいちばんきれいなのがこれ→Isocolusだが、たぶん酸化マグネシウムで白く色づけしてあるんだろう。

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本種の産地はスウェーデンのダーラナ県カルホルン(Kallholn)というところで、そのあたりのボダ石灰岩層(オルドビス紀)からは他にもいくつか小さい三葉虫を産する。Ityophorus undulatus や Proetus convexus などがそれで、密集になった標本をよく見かける。こういった群小三葉虫にはこれまであまり注目してこなかったが、イソコルスを手に入れたことで、これらにも無関心ではいられなくなった。……


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イソコルスの特徴として、眼がないことがあげられる。タバコシバンムシにすら眼はあるというのに……いや、まあなんらかの事情で眼を放棄してしまったのだろうが、そのことと関係があるのかどうか、国内有数のコレクター氏のページに、本種の種名 sjoegreni を眼科医のシェーグレンと関連づけた記述がみられる。

私が思うに、この種名のもとになったシェーグレンは19世紀のスウェーデンの地質学者/古生物学者であって、20世紀の眼科医ではない。アンゲリンが本種を記載したのは1854年のことで、そのときは新属ということで、sjoegreni という名前はついていなかったかもしれないが、おそらくその後ほどなくして Isocolus sjoegreni の名で呼ばれるようになったと思われる。ちなみに地質学者のシェーグレンは1851年と1871年に三葉虫に関する論文を発表している。