カリメネについて

みなさんはカリメネがお好きですか? 私は大好きですよ~

というわけで(?)、今回はカリメネのお話。まず大御所フォーティの意見を聞いてみよう。

「カリメネは多くの人から典型的な三葉虫とみなされている。……シルル紀の地層で最もふつうに見つかる三葉虫の一つで、古い歴史をもつウェンロック地域で発見された。……ウースターシアのダドリーの町では、一八世紀および一九世紀に栄えた採石場から、何万という美しく保存されたブルーメンバハのカリメネ(カリメネ・ブルメンバキイ)が産出した。気の利いたコレクションであれば、かならずこの標本が一つか二つはあるはずだ。それらは妙に人を満足させる代物で、手のひら大で、ふっくらとし、まぎれもない根源的な魅力を発散している。……」(「三葉虫の謎」pp.113 - 114)

「気の利いたコレクションであれば……」 なるほどそうかもしれん、と思いながら、保育社の「原色化石図鑑」を見ると、ここにもカリメネ・ブルーメンバッキィの写真が出ている。しかしこれはイリノイ州グラフトンで出たものだから、正確には blumenbachii ではなくて celebra であろう。

私もつい最近このグラフトン産のカリメネ(ステナロカリメネ)を手に入れた。保存状態はあまりよくないけれども、この産地のものの特徴はよく出ている。ざらざらした質感で、艶がなく、脆そうな石質なので、好みが分かれそうだが、私は嫌いではない。「(カリメネの)白い色は恋人の色」というわけで、その色合いはブルボンの銘菓ホワイトロリータを彷彿させる*1


Calymene celebra



ところで、カリメネはシルル紀限定というわけではない。その前のオルドビス紀にも、後のデボン紀にも棲息していた。さすがにデボン紀になると衰退の度合がいちじるしいが、オルドビス紀であれば、世界各地の地層からカリメネの産出は報告されている。

そこでふしぎに思うのは、あれほど多種多様の三葉虫を産するロシアでなぜカリメネが出ないのか、ということだ。広くカリメネ目ということでいえば、なんとかいう稀少種が出るらしいが、「オルドビス紀三葉虫」という大冊をひっくり返しても、ロシア産の一般的なカリメネはどこにも見当らない。カリメネにとって、オルドビス紀のロシアは棲みやすい環境ではなかったのだろうか?

まあそれはそれとして、やはり最近手に入れたものに、カリメネ・ブレヴィケプスというのがある。産地はインディアナ、年代はシルル紀。ご覧のとおり、母岩なしの小さい標本だが、これが色といい保存状態といい、ロシア産の三葉虫にじつによく似ているのだ。じっさいのところ、ロシア産のカリメネがもしあったらとたらこんな感じではなかろうか、と思ってしまうほどもの。いちばん下にアサフスと並べた画像を出しておく。


Calymene breviceps



自在頬が反転して下にずれ込んでいるので、おそらく脱皮殻であろう。見た目はオクラホマ産のカリメネ・クラヴィクラとほとんど同じだ。そこで思うのだが、オクラホマのクラヴィクラ、インディアナのブレヴィケプス、イリノイのケレブラ、これらは生前はほとんど区別がつかないくらい似ていたのではないか。

一方、同じシルル紀のカリメネといっても、ダドリー産のものとなるとだいぶ容子が違ってくる。これが模式種になっているのは、たんに最初に発見されて研究されたという歴史的偶然によるものだが、形態的にも模式種になりうるだけの条件を備えている。というのも、あらゆるカリメネのうち、これがいちばん過不足のない形をしているからで、よくいえば黄金の中庸、わるくいえばこれといった特色がないのである。カリメネにおけるミスター平均は間違いなく本種であろう。


Calymene blumenbachii

Society Logo – BCGSより)


さて、フォーティは本種について、胸節は12あると書いている。いっぽう、原記載者であるブロンニヤルの論稿をみると、胸節は14とある。どっちが正しいのか? ネット上の画像で確認すると、どうも13個が正しいような気がするが、私の数え方がまちがっているかもしれない。北米産のカリメネに関しては、どの種類も13個ということで決着がついているようだ。

胸節の数なんてどうでもいいじゃないの、という声もあるだろうが、私は気にする方だ。フェイクをつかまされないように用心しているうちに身についてしまった習性かもしれないが……

あと余談だが、カリメネという名前はブロンニヤルの創案にかかるもので、ギリシャ語の kekalymene(隠されたもの、知られざるもの < kalypto)の前綴り ke を省略したものらしい。初期の三葉虫の名前は、アサフスもパラドキシデスもアグノストゥスもみな「得体のしれないもの」という意味のギリシャ語由来なのがおもしろい。

ついでに、1750年の「哲学紀要(Philosophical Transactions)」に出た、史上初のカリメネの画像を紹介しておこう。もちろんダドリー産の C. blumenbachii である。




カリメネといえばダンゴムシのように丸まった姿勢のものがよく見られる。これについてフォーティはこう書いている。

「私は、学校の生徒たちが手のなかで四億年以上の歴史の重みを実感できるように、丸まったカリメネを彼らに手渡しさせていくのが好きだ。そのような実物とのかかわりは一回で、10本のビデオよりも価値がある。……」(前掲書、p.114)

私もドロトプスの丸まったのを手にもったときは、手の細胞がなにかを感じ取ったような気がしたが、あれが歴史の重みというものだったのか……


     * * *


もうひとつ、最近手に入れたカリメネに、カナダのオルドビス系から出たフレキシカリメネ・セナリアがある。この種類はいままで二度買っていて、二度とも手放した。今度のが三度目の正直ということになればいいと思う。


Flexicalymene senaria



カリメネの種類の違いはおもに頭部に現れている。とくに頭鞍のコブの大きさや形、溝の切れ込み具合などが識別の重要なポイントになるらしい。おおざっぱにフレキシカリメネとディアカリメネとの見分け方が書いてあるページがあるので紹介しておこう。

この piranha さんがあげている図が非常にわかりやすい。頭の前の「吻」の部分に畝がついているかどうか、頭鞍の二個目のコブが固定頬の張り出しに接しているかどうか、が決め手のようだ。


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*1:苦灰石 dolomite というらしいが、この名前がまたロリータの正式名ドロレス Dolores を想起させる