ルソフィクス

──ね、おじさん、三葉虫の絵を描いて。
──三葉虫かい、じゃ、カリメネを描いてあげよう。
──なんだかよれよれのカリメネだなあ。
──それじゃ、このファコプスでどうだ。
──ファコプスはこんなに細長くないよ。
──そんなら、とっておきのこれはどうだ、リカスだよ。
──ぼく、リカスあんまり好きじゃないんだ。だって、リカスってけんのんだろう?

男は困り果てた。そこで、

──よし、じゃ三葉虫の巣穴を描いてあげよう。あんたの好きな三葉虫、その中にいるよ。

するとこどもは目を輝かして、じっと巣穴の絵を見つめた。

──うん、ぼく、こんなのが欲しかったんだ。ありがとう、おじさん。


     * * *


三葉虫が巣穴を作って暮していたかどうかは知らない。ただ、ルソフィクスというものがあって、一般に巣穴とか、休息跡とか呼ばれている。数ある生痕化石のうちでも、たぶんこれがいちばん三葉虫が作った可能性が高い。

ルソフィクスの代表的なものに、Rusophycus pudicum というのがある。pudicus とは、辞書をひくと「恥を知る」とか「慎み深い」とか書いてある。休息跡が恥を知っていたり、慎み深かったりするというのも解せない話だ。

pudicus の反意語は impudicus だが、これが学名に使われているので有名なのが、すっぽんたけというきのこの一種。これは学名を Phallus impudicus という。この場合の impudicus は「臆面もなくおっ立った」というほどの意味だろう。

そういうことからすれば、pudicus の意味するところも、なんとなく分るのではないか。ルソフィクスを縦にしてみれば、いっそう理解が深まるかもしれない。


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このまえクルジアナのレプリカを手に入れた話をしたが、あれを見ているうちに、生痕化石というものにかつてない興味をおぼえるようになった。ポーランドの Holy Cross Mountains から出るルソフィクスで大きめのやつがあればいいのだが。形状が pudicum であればもちろん最高である。