シルル紀の三葉虫

私がひそかに「ダドリー三大頭ボール」と名づけている三葉虫がある。スフェレキソクス、スタウロケファルス、ダイフォンがそれだが、これらの模式種を調べてみると、いずれも英国より先にボヘミアで産出していることに気がつく。ダドリー三大頭ボールは、じつはボヘミア三大頭ボールでもあったわけだ。

ダイフォンについては前に書いたので、とりあえず手に入れたレプリカからスフェレキソクスとスタウロケファルスの画像をあげておこう。


Sphaerexochus mirus



Staurocephalus susanae


こういう特色のある三葉虫が、同じ時代にボヘミアと英国から出ているということは、これら以外にも、両産地に共通した近縁種のあることを予想させる。たとえば、ダドリーバグの筆頭にあげられるカリメネ・ブルーメンバキだが、これに対応するボヘミア産のカリメネはあるのだろうか。

調べてみると、カリメネ・ディアデマタ、すなわち後のディアカリメネがシルル紀ボヘミアから出ているが、これは形はともかくとして、その産出数や保存状態の点では、とうていダドリーバグの敵ではない。ボヘミアにはダドリーと釣り合うようなカリメネの産出はなかったと見なければならない。

ケイルルス類では、ボヘミアのケイルルス・インシグニスと、ダドリーのクテノウラ・レトロスピナとが好一対だ。オドントプレウラ類ではレオナスピスが両産地から出ているが、あまり似ているとはいいがたい。

その他、ファコプス類では、ダドリーで産出するアカステその他の初期型ファコプスに対応するようなボヘミア種はなさそうだし、リカスやアウラコプレウラの仲間に目を転ずると、類似点よりもむしろ相違点のほうが目立つような種類が多くなってくる。結論からいうと、ダドリーとボヘミアとの間にはっきりした並行関係や類比関係があるわけではなさそうだ。似ている点もあれば似ていない点もあり、どっちも「たまたま」としかいいようがないのである。

ただし、シルル紀三葉虫全般に目をやると、その産出する種類の多さの点で、英国とチェコはだんぜん他を圧している。私がバイブルのように大切にしているジェルとアドレインの Generic Names からシルル紀三葉虫の属名リストを作ってみると、英国53属、チェコ50属となっていて、三位の中国30属を大きく引き離している*1

ここで注目すべきは、日本が意外にがんばっていることだ。アメリカ、カナダの26属には及ばないが、ゴトランド島を擁するスウェーデンが15属なのに対し、日本は10属と健闘している。これはなかなかすごいことではないか。ここではシノニム(異名)もいちおう別属とみなしているので、実質的にはもっと数が減ると思うが、それは日本だけでなく他の国についてもいえることなので、順位にはあまり関係ない。そして、日本で産出するシルル紀三葉虫(模式種)の産地が、ほぼすべて四国の、とりわけ横倉山であるのも注目に値する。

ジェルとアドレインの表は世界じゅうの人が見ているので、Yokokura-yama, Shikoku の名前は、おおげさにいえば世界に轟いているとみなしてよい。海外の人々は、たとえばわれわれがダドリーやゴトランドに対して抱くのと同じような憧れの気持を、Yokokura-yama や Shikoku に対して抱くのだろうか?

保育社の「原色化石図鑑」の「むすび」に、「日本列島のサンゴ礁」と題して、横倉山が扱われているので、その部分を引用しておく。

日本列島の歴史は横倉山にはじまる。佐川盆地から、いきなり海抜1,000mを越すその奇怪な山容には、地質学に関心のない人であっても、すぐさま目をうばわれるにちがいない。その峨々たる山稜こそ、実に4億年もの昔、生まれたての日本列島海域にあって、華やかな生物界を育てた、かつてのサンゴ礁の化石なのである。


地質時代の呼び名でいうと、シルル紀中~後期。この暖海に栄えた多くの造礁性サンゴ──クサリサンゴ、ハチノスサンゴ、日石サンゴ等々──をはじめ、その間をぬって生きていた大型腕足類のコンキディアム、小型のエオスピリファー、そして数多くの三葉虫。それらの全ては今、ピンク色に輝やく土佐桜の愛称をいただいた石灰岩の中に、静かに埋もれているのである。磨き上げられた石材の表面に、そして石切場の割り石の中にも、4億年の夢からさめた化石たちは、その華やかだった歴史をありありと語ってくれるのである。


(保育社「原色化石図鑑」p.191より)

*1:この場合の英国というのは、いわゆるUKのほかにアイルランド共和国も含んでいるが