立松氏の講演

8月2日に行われた立松氏の講演「50年の軌跡~三葉虫多様性とその美~」から。

立松氏の化石蒐集のスタンスとして印象的だったのは、なぜ集めるのか、という問いに対して、「好きだから、楽しいから」という、単純ですが断固とした態度を持しておられることですね。それ以外に化石を集める理由なんてあるの?と氏の全存在が無言のうちに語っているようで、非常に心づよく感じました。

化石については、立松氏はもともと「買う派」ではなくて「掘る派」だったらしいです。大学、大学院時代の10年間は、夏休みを利用して日本全国を回られたそうで、「いい化石の出そうにない」9県を除いてすべての都道府県で化石を採集されたようです。

当時の採集の様子を撮った写真がいくつか紹介されていましたが、なかでも留学先のアメリカでの、砂丘のように広大な漣痕をバックにした肖像写真が印象的でした。

ニューファンドランドは巨大なパラドキシデスが出るので有名な産地ですが、いまではまず採取はできないらしく、商品としても出回っていません。そのパラドキシデスをご自身で採取されているのには驚きました。

お孫さんが今妖怪ウォッチの関連グッズを夢中で集めている、それと同じ情熱をもって半世紀以上ものあいだ、化石蒐集を続けられたことにまず頭がさがるんですが、「ときめくものならなんでも集めた」時代をへて、三葉虫に的をしぼられたのには、次の四つの理由があったらしいです。

1.わかりやすい多様性
2.手のひらサイズであること
3.形のおもしろさ
4.よく研究がすすんでいる

だいたい以上が前置きで、そのあと目(オーダー)ごとに代表的な三葉虫が解説されましたが、私がおもしろいと思った点をいくつかとりあげると──

コネプルシア、ティサノペルティス、オレノイデスの画像がいくつも映される。どれも同じに見えて、微妙に異なる種の画像です。こういった微細な差異が、立松氏にはもうたまらない魅力なんだそうです。ここまでくると、私にはちょっとついていけない、真正コレクターの領域といわねばなりません。ほんの少しの違いが新たな蒐集欲をかりたてる。ほとんどいっしょなんだからもういいでしょ、というふうにはならないらしいのです。この熱意があるかどうかが、真正のコレクターと一般的な愛好家とを分ける目安になるのかな、と思いました。

私自身がさいきんトゲトゲ三葉虫づいているからかもしれませんが、氏の紹介のなかでもとりわけ興味深かったのがオドントプレウラ科の解説でした。ここで採り上げられたもののうち、ラディアスピスは会場に展示されていましたが、アピアヌルス(Apianurus)のほうはどうだったか。たぶんなかったんじゃないかな。もしあったとしたら、まず見逃すはずはない、それほど特異な三葉虫でした。興味のある方はググってください。しっぽに垂直のトゲが二本生えたやつです。

それにしても、プレゼンで示されたラディアスピスと、会場に展示されていたものと、はたして同じものかどうか。私にはなぜか別物に見えました。その理由を説明しようとすると長くなるので省略しますが、ああいう立体的な標本は、一方向からではなく上からも横からも見えるような展示方式にしてほしいものです。

まあこんな感じで、あまりうまいレジュメにはなりませんでしたが、ご勘弁を願います。