前回のつづき

いくつか書き洩らしたものを追加しておく。いずれも最近手に入れたもの。


1.アステロフィリテス・エクイセティフォルミス

これはフランス産の石炭紀の植物化石で、見栄えよく母岩を切り取ってある。この手のものはポーランド産が多く出回っていて、あとはスペイン産がそれに次ぐくらいだったが、最近ではフランス産やチェコ産もよく目にするようになってきた。こういうのは見たら欲しくなるのでなるべく見ないようにしている。母岩サイズ7㎝ほど。


Asterophyllites equisetiformis


2.プレウロキスティテス・スクアモス

カナダのオンタリオ州シムコー郡の Verulam 層(オルドビス系)から出たもの。この産地のものではウミユリ(クプロクリヌス)と三葉虫(ケラウルス、ナニレヌス)を以前買った。

今回のプレウロキスティテスは棘皮動物の一種で、cystoid(ウミリンゴ)に分類されるらしい。ウミリンゴはすでに絶滅しているので、生きたものはお目にかかれない。三葉虫と同様、化石でのみ知られている生き物だ。


Pleurocystites squamosus


一口にウミリンゴといってもいろいろあって、このカナダ産のものは Rhombifera(孔菱目)に属するようだ。Rhombifera というのは pore-rhomb(孔菱)をもつもの、という意味で、本体(苞)の表面に三ヶ所、櫛型の条のついた孔(孔菱)がある。





3.シャッタカイト

前回言及したシャッタカイトはナミビア産だったが、今回のはコンゴカタンガ産とのこと。




見えている部分のほとんどはクリソコラであり、シャッタカイトはその上に少しだけ、へばりつくような感じでくっついているのではないかと思われる。もしこれが100パーセントシャッタカイトで覆われていたならば、おそらくかなりの値段になっていただろう。



4.ウミサソリの頭部

ウクライナのシルル系から出たもの。正式名をバルトユーリプテルス・テトラゴノフタルムスという。長さは3㎝ほどで、全体的には印象化石に近い。黒くなっている部分は外殻の名残だろうか?


Balteurypterus tetragonophtalmus


ウミサソリの化石は三葉虫などと比べるとあらゆる意味で大味だ。下の画像はカナダ産のウミサソリと並べて撮ったもの。


三葉虫以外に買った化石や鉱物

について簡単にメモしておく。


1.シャッタカイト・イン・クォーツ

これは去年の夏に買ったもの。あんまり暑いので、涼しげな鉱物でも眺めて暑さをしのごうと考えたのだが、もちろん実用には役立たなかった。ルーペで眺めると、もこもこしたシャッタカイトの上に硬質の水晶がかぶっているのがおもしろい。ナミビア産の、4㎝ほどの標本。





2.ペンシルベニアのシダ植物の化石

これも去年買ったもので、一般にアレソプテリスの名で知られている。けっして珍しいものではなく、日本でもヤフオクなどでよく見かけるが、私は某Aトラスの香具師の口上のような誇大なセールストークに惑わされて、いつか手に入れたいとひそかに思っていた。

買った当初は当てがはずれて、つまらないものを買ってしまった、と後悔したが、時間が経つとともにだんだん悪い印象は薄れていって、とうとうある種の愛着をもつまでになった。細かく見ていけば、アレソプテリス以外にも何種類かのシダ類が含まれているようだ。




産地(セントクレア)は閉鎖されたとかいう話もあるが、you tube には当地で化石を掘っている動画がいくつか出ている。それらを見ていると、作業はいかにも無造作で、化石の扱いもひどくぞんざいだ。まあたしかに現場ではそういうものなんだろうな、という気がする。


www.youtube.com



3.スコレサイト、カルセドニー

スコレサイトは灰沸石、カルセドニーは玉髄、と訳語を知っただけではさっぱり分らないのが鉱物というもののありようだ。名前、組成は同じでも、産状によってまったく別物に見えてしまうのだから困る。まあそれが奥の深さでもあり、おもしろみでもあるんだろうけど……





放射状に広がったオレンジの部分がスコレサイトで、それを取り巻いているもこもこした半透明の石がカルセドニーらしい。産地はインドのマハラシュトラというところで、サイズは3㎝弱。


4.大理石中のアンモナイト

建物の石材中に化石が含まれていることがあって、デパートなどではそれが一種の名物になっていたりもするらしい。フズリナなどは細かすぎて分りにくくても、縦に二つ割にしたアンモナイトならばだれでも見ただけでそれと分る。

この標本もそういう大理石に含まれたアンモナイトの断面で、ドイツのバヴァリアで採れたものらしい。アンモナイトはだいぶ前に守備範囲から外れてしまったが、インテリア向けのものならかろうじて食指が動く。大きさは直径約10㎝で、ヤフオクで手に入れた。




5.オーケン

前に化石掃除用の刷毛を紹介したとき、オーケン石でも使えるだろうか? という疑問を出しておいたが、それを実地に確かめるべく購入したもの。

結論からいうと、標本を傷めずに使うことはできるが、使ったからといって汚れが落ちるものではない。オーケン石のふわふわした毛のようなものは、石というより繊維のようで、触れば毛のようにたわむ。この繊細な組織に付着した汚れは、ちょうど動物の毛に付着した汚れと同じく、ブラシで軽くこすったくらいで落ちるものではない。

ひそかに思うのに、実質的にオーケン石の汚れは落とせないのではないか。

まあ、埃くらいなら刷毛で落とせるので、まるきり使えないというわけではない。




あとまだいくつか残っているが、それはまた後日にまわそう。

トリメロケファルス・カエクス

眼のないファコプスとして一部では有名な(?)トリメロケファルス。ドゥクティナとよく似ているので間違えやすいが、ドゥクティナは頭部がすっぺりと滑らかなのに対し、トリメロケファルスの頭部は細かい粒々で覆われている。


Trimerocephalus caecus (L:25mm)



この標本はこれまでネットでさんざん目にしてきた。あるときは正価で売られ、あるときはオークションにかけられ、あの手この手で売りに出されたが売れず、けっきょく私のところへやってきた。なんとなく売れ残り品を引き取ったような格好だが、たぶんそれでよかったんだと思う。

産地はポーランドの Holy Cross Mountains とのこと。この Holy Cross Mountains(訳せば聖十字架山?)という名前の響きがカッコよくて、ずっと前から気になっていた。

SSPの「世界の三葉虫」には、ポーランド産の三葉虫について、次のような記述がある。

「じっさいのところポーランド産の三葉虫の極上のものはすべてポーランドの南西部、チェコとの国境に近い Holy Cross Mountains で採取される。ここにはすばらしいカンブリア紀の露頭があり、またシルル紀デボン紀の地層があって、みごとに保存された三葉虫が産出する」

今回のものも、画像ではなんとなくクシャクシャした、保存のよくない標本にみえるかもしれないが、そのプレップ技術はなかなかのものだ。母岩、仕上り具合ともども、デボン紀オクラホマのものによく似ていて、もしかしたらボブ・キャロル並みの名手が手がけたんじゃないかと思ってしまう。


スフェレキソクス・ラティフロンス

全身揃ったものだと高くて買えないようなものでも、部分ならなんとか手が届く──私が部分化石に手を出すのはたいていそんな理由からだが、だんだんと経験を重ねていくうちに、部分化石にもふたつの種類があることが分ってきた。

ひとつは部分だけでも鑑賞に(あるいは愛蔵に)堪えるもので、もうひとつはそれ以外、つまり部分だけではどうにも慊らない心地のするもの。

今回前後して手に入れたふたつの部分化石が、ちょうどこの二つのカテゴリーにぴったり当てはまるように思うので、それについて書いてみよう。

ひとつはゴトランド産のスフェレキソクス(Sphaerexochus latifrons)。このスフェレキソクス属というのは、ヨーロッパだけでなくてアメリカでも産するし、日本でもシルル紀の地層から出るという。このように世界各地でみつかるほど繁栄したわりに、全身揃ったのがほとんどない。たいていは頭部だけという産状で、日本ではそのかたちから「ヘルメット」と呼ばれているらしい。

しかしこのヘルメット、見れば見るほど味わいぶかく、かつ飽きがこない。いったい自分がなぜこうもこのヘルメットに惹かれるのか、それは分らないが、「うーん、これが全身揃っていたらなあ」という考えが浮かぶ暇もないほど、頭部だけに見入ってしまうのである。その造形にはどこか「アマゾンの半魚人」を彷彿させるものがある。





スフェレキソクスの模式種はミルス(S. mirus)といって、ボヘミアで産出する。下の図に示すのがそれだが、ほかに日本ヴォーグ社の「化石の写真図鑑」に載っているダドリー産の完全体などをみても、頭部の異様さにくらべて、胸部以下が意外に平凡なのが分るだろう。



要するにスフェレキソクスの特徴はほぼ頭部に現われているので、それを端的に示している部分化石がわれわれの興味を惹くのは当然のことなのだ。修辞的にいえば、この手の標本の「部分は全体よりも大きい」。

今回の標本は、小さい固定頬や額環も含めた頭蓋(cranidium)で、これに自在頬が加われば頭部が完成する。


     * * *


さて、もうひとつの標本、つまり部分だけでは満足できない部類のものについても書こうと思っていたが、あまり好きになれないものについて書くのも疲れるだけなのでやめにした。上にあげたスフェレキソクスの正反対、つまり部分をいくら集めても全体に及ばないような標本、修辞的にいえば「部分の総和がつねに全体よりも小さい」たぐいの標本がそれにあたるとだけ述べておこう。


     * * *


あと、ついでに語源的なことを書いておくと、Sphaerexochus の exochus というのはギリシャ語で「優れた、卓越した(もの)」という意味で、ラテン語の insignis に相当すると思う。sphaer- はもちろん「毬、ボール」の意味だ。

sphaer-(毬) のかわりに coryn-(棒)がつくと、Corynexochus となって、コリネキソクス目(Corynexochida)にその名を与えた三葉虫になる。

Sphaerexochus の頭が毬なのは見ればすぐわかるが、Corynexochus の頭が棒とはこれ如何にといえば、おそらくその頭鞍が細長くて棍棒のように見えたからではないかと思う。中国では聳棒頭虫と呼ばれている由。

ナニレヌス or タレオプス

AVAILABLE GENERIC NAMES FOR TRILOBITES という、三葉虫愛好家にはバイブルのような資料があって、ネットでも手軽に見られるので重宝しているが、これによるとナニレヌスとタレオプスはそれぞれ次のように説明されている。


ナニレヌス(Nanillaenus)
命名者:JAANUSSON, 1954
模式種:Illaenus conradi BILLINGS, 1859
産地:カナダ、オンタリオ、Black River Group
時代:オルドビス紀中期
分類:イレヌス科


タレオプス(Thaleops)
命名者:CONRAD, 1843
模式種:Thaleops ovata CONRAD, 1843
産地:アメリカ、アイオワ州、Maquoketa Fm.
時代:オルドビス紀後期
分類:スティギナ科


これでみると、両者は科レベルで異なっていることになるが、じっさいはどうだろうか。

下にBPMの図鑑の337ページにある画像をあげておこう。左がナニレヌスで、右がタレオプスだが、ほとんど同一種にしかみえないのではないか。



「ニューヨークの三葉虫」などを見ると、ナニレヌスもタレオプスもひとしくイレヌス科に分類されていて、これがいちばん妥当な見解のような気がする。頬角が鋭角をなして突き出ていたらタレオプスで、柔和に丸まっていたらナニレヌス、というのが素人にはわかりやすくていい。

さて、今回手に入れた標本だが、いちおうナニレヌスの一種ということになっている。しかし、SSPの「オルドビス紀三葉虫」という本によれば、「カナダ産のタレオプスのあるものは、かつてはナニレヌスの一種として分類されていた」とのことなので、もしかしたらタレオプスの一種である可能性もある。

そう思ってよくよく眺めると、たしかに頬角はふつうよりも鋭く突き出ているようにみえるが、なにしろ頭部が上からの圧力でつぶれてしまっているので、正確なところはわからない。






まあ私としては名前などはどっちでもいいので、カナダ産のイレヌス類が手に入っただけで満足だ。産地はオンタリオ州シムコー郡の Verulam 層とのこと。