お知らせとお詫び

最近書いたいくつかの記事は、2、3日したら消すつもりだったが、コメントをいただいたので非常に消しづらくなった。コメントに著作権があるかどうか、とかそういう問題ではない。こういう人の来ないブログにわざわざコメントを書いてくださる、それがどれほどありがたいことか、身に沁みて分っているので、削除するに忍びないのである。それは人の善意までいっしょに消し去ることだ。

とはいうものの、過去に書いた記事が200を超えてきて、それもつまらない記事が多量にあるのが気になっていた。こんなブログでも、たまに見に来てくださる新規の方はいる。そういう人が、読んでも読んでも終りにならない、しかもつまらない記事でいっぱいの状態に辟易している様子がありありと想像できるので、思い切って半分近くの記事を削除した。もちろんコメントもいっしょにである。

というわけで、せっかく書いてくださったコメントは消えてしまいました。まったくもって申し訳ないことで、いくら恨まれても仕方がない。こんなやつのところにもうコメントなんか書くか、というふうに思われても仕方がないのだ。

しかしいっぽう、自分がコメントを書くことを考えると、だれかのブログに書いたコメントがいつまでも残るのはあまり好ましくない。私の書くコメントは、そのときかぎりの会話のようなもので、音声と同様、文字も消えてしまってぜんぜんかまわないのだ。

そう考えてくると、そんなに神経質になることもないか、という気がしてくる。もちろん、これは私の考えであって、他人様もそう考えるかどうかは別問題だ。

まあいずれにせよそういうわけなので、これからもコメントのあるなしにかかわらず、どうでもいい記事はある程度の時間が経ったら削除しようと思う。変な話だが、ブログ記事というものはそういう一時的なもので、書籍みたいにいったん出ればいつまでもあるというものではない。ブログにかぎらず、ウェブの記事はエフェメラのようなもので、リンク切れなどは日常茶飯事に属する。

では、なんでそんなつまらない記事を書いて投稿するか、といえば、定期的に見に来てくださる少数の方々には、ちょっとした暇つぶし程度の楽しみを与えることができるのではないか、と考えるから。消すつもりだった「レプリカを集める男の話」だとか、「コレクター失格」だとか、そんなものでも、なんとなく書きたい気になったから書いたのだし、自分だったら他人の書いたそんな話は読みたいと思うだろう。

というわけで、これからも埋め草的な記事は書いていくと思うし、しばらくしたらそんな記事が消えていることもあると思う。すべては私の気分次第なので、納得のいかない点があっても、また citarius が阿呆なことをやっとるわい、というくらいの気持で眺めていただければ幸いです。

ブマストゥスについて

フォーティの本の図版で見て以来、ブマストゥスには特別な関心をもっていて、いつかは現物を、と思っていたが、なかなか目にする機会がない。それもそのはずで、これは英国のシルル紀の産なのである。そんなものが私のところへ廻ってくるはずもないのだが……

それだけに、この前買ったレプリカのなかに、次のようなのを見つけたときは、思わず快哉を叫んだ。



これこそあのフォーティの本で見かけたブマストゥスではないか。そう思って調べてみると、どうもブマストゥスではなくてキバンティクス(Cybantyx anaglyptos)という種類のようだ。キバンティクスは1978年に記載されているから、わりと新しく見つかった種類のようだが、じつは以前から Illaenus (Bumastus) insignis という名前で知られていたものと同じだという説もある。

もしそれがほんとなら、ソルターにまでさかのぼる古典的な三葉虫なので、フォーティがこれをブマストゥスの名で呼んでいてもおかしくない。たとえばエルドレジオプスをファコプス・ラナと呼ぶように。

じっさい、見れば見るほど両者は瓜二つだし、そのボディラインは数あるイレヌス類のなかでも際立って優美だ。


左がフォーティの本のブマストゥス、右がキバンティクスのレプリカ


レプリカながら、じつにたまらん三葉虫であり、その丸みを帯びたふくよかなラインは、いっそけしからんといってもいいくらいだ。





キバンティクスやブマストゥスは厳密にはイレヌス科ではなく、姉妹科のスティギナ科に属するらしい。このあたりの分類は微妙だが、本種を見ていると、どこかパラレユルスを思わせるところもある。パラレユルスまでくると、スクテルムまではあと一歩だ。こうして、スティギナからスクテルムまで、ゆるやかに形態的な連鎖をたどることができる。

コレクター失格

某オクに三葉虫いっぱい出てますよ、というので見に行ったら、

極上! 超一級品! 超レア! 稀少! 巨大! 超巨大! ワールドクラス! 超ディテール! 厳選! 超美麗!

という具合に、!!!のオンパレードで目がくらくらした。前からこんなんだったっけ。いずれにせよ、今の私にはそんな超のつく標本は必要ない。よくできたレプリカがあれば、それで満足する。

というわけで、コレクターとしては布衣匹夫以下に成り下ってしまった私だが、しかしそのことをとくに残念だとも思わない。たぶんそうなるのが私の運命で、それはカンブリア爆発のときにすでに予定されていたのだ。

極上! 超一級品! 超レア! 稀少! 巨大! 超巨大! ワールドクラス! 超ディテール! 厳選! 超美麗!

よろしい、そういうものはみなさんにおまかせする。嫌味でいっているのではない。すばらしい標本はすばらしいコレクターのもとへ行ってこそ真価を発揮する。なにかのはずみで私のところに転がり込んできた高額標本が、いずれも居心地がわるそうに見えるのは、理の当然なのである。

レプリカを集める男の話

ある男がいて、三葉虫のレプリカを集めるのを楽しみにしていた。あんまり次々に買ってくるものだから、奥さんからいつも小言をいわれていた。

──よくそんなつまんないものばっかり集めてられるわね。
──うん、ごめんよ。でもおれは三葉虫が好きでね。まあ、安月給じゃほんものは買えないんで、レプリカでがまんしてるのさ。安いんだから、そうガミガミいうなって。

やがて男は年老い、死んだ。あとには膨大な量の三葉虫のレプリカが残された。妻はまとめてゴミに出そうと思ったが、やはり夫が大切にしていたものなので、知人を通じて骨董屋に買い取ってもらうことにした。どうせたいしたお金にはならないだろうけど……

骨董屋はざっと検分すると、ちょっと気になることがあるからといっていくつかレプリカを持ち帰った。数日後、連れの男といっしょに改めて商品を見直してから、骨董屋はこういった。

──奥さん、驚いちゃいけませんよ。ここにあるこれ、ぜんぶほんものですよ。
──え?
──こちらの化石専門の方がそうおっしゃるんだから、まちがいありませんよ。ぜんぶ合わせると、かなりの金額になるとのことですぜ。

じっさい、話をきくと驚くほどの高額標本ばかりなのだった。

──どうなさるかは奥さんの勝手だが、マニアがいくら金を出しても欲しがるような化石ばかりなんだから、もしいらないんなら、私が買い取りますよ。責任をもってね。

妻はあまりのことに声も出なかったが、やがてあることに思い当って慄然とした。

──あの人は、こんなものを買うお金をいったいどこから手に入れていたんだろうか?

シルル紀の三葉虫

私がひそかに「ダドリー三大頭ボール」と名づけている三葉虫がある。スフェレキソクス、スタウロケファルス、ダイフォンがそれだが、これらの模式種を調べてみると、いずれも英国より先にボヘミアで産出していることに気がつく。ダドリー三大頭ボールは、じつはボヘミア三大頭ボールでもあったわけだ。

ダイフォンについては前に書いたので、とりあえず手に入れたレプリカからスフェレキソクスとスタウロケファルスの画像をあげておこう。


Sphaerexochus mirus



Staurocephalus susanae


こういう特色のある三葉虫が、同じ時代にボヘミアと英国から出ているということは、これら以外にも、両産地に共通した近縁種のあることを予想させる。たとえば、ダドリーバグの筆頭にあげられるカリメネ・ブルーメンバキだが、これに対応するボヘミア産のカリメネはあるのだろうか。

調べてみると、カリメネ・ディアデマタ、すなわち後のディアカリメネがシルル紀ボヘミアから出ているが、これは形はともかくとして、その産出数や保存状態の点では、とうていダドリーバグの敵ではない。ボヘミアにはダドリーと釣り合うようなカリメネの産出はなかったと見なければならない。

ケイルルス類では、ボヘミアのケイルルス・インシグニスと、ダドリーのクテノウラ・レトロスピナとが好一対だ。オドントプレウラ類ではレオナスピスが両産地から出ているが、あまり似ているとはいいがたい。

その他、ファコプス類では、ダドリーで産出するアカステその他の初期型ファコプスに対応するようなボヘミア種はなさそうだし、リカスやアウラコプレウラの仲間に目を転ずると、類似点よりもむしろ相違点のほうが目立つような種類が多くなってくる。結論からいうと、ダドリーとボヘミアとの間にはっきりした並行関係や類比関係があるわけではなさそうだ。似ている点もあれば似ていない点もあり、どっちも「たまたま」としかいいようがないのである。

ただし、シルル紀三葉虫全般に目をやると、その産出する種類の多さの点で、英国とチェコはだんぜん他を圧している。私がバイブルのように大切にしているジェルとアドレインの Generic Names からシルル紀三葉虫の属名リストを作ってみると、英国53属、チェコ50属となっていて、三位の中国30属を大きく引き離している*1

ここで注目すべきは、日本が意外にがんばっていることだ。アメリカ、カナダの26属には及ばないが、ゴトランド島を擁するスウェーデンが15属なのに対し、日本は10属と健闘している。これはなかなかすごいことではないか。ここではシノニム(異名)もいちおう別属とみなしているので、実質的にはもっと数が減ると思うが、それは日本だけでなく他の国についてもいえることなので、順位にはあまり関係ない。そして、日本で産出するシルル紀三葉虫(模式種)の産地が、ほぼすべて四国の、とりわけ横倉山であるのも注目に値する。

ジェルとアドレインの表は世界じゅうの人が見ているので、Yokokura-yama, Shikoku の名前は、おおげさにいえば世界に轟いているとみなしてよい。海外の人々は、たとえばわれわれがダドリーやゴトランドに対して抱くのと同じような憧れの気持を、Yokokura-yama や Shikoku に対して抱くのだろうか?

保育社の「原色化石図鑑」の「むすび」に、「日本列島のサンゴ礁」と題して、横倉山が扱われているので、その部分を引用しておく。

日本列島の歴史は横倉山にはじまる。佐川盆地から、いきなり海抜1,000mを越すその奇怪な山容には、地質学に関心のない人であっても、すぐさま目をうばわれるにちがいない。その峨々たる山稜こそ、実に4億年もの昔、生まれたての日本列島海域にあって、華やかな生物界を育てた、かつてのサンゴ礁の化石なのである。


地質時代の呼び名でいうと、シルル紀中~後期。この暖海に栄えた多くの造礁性サンゴ──クサリサンゴ、ハチノスサンゴ、日石サンゴ等々──をはじめ、その間をぬって生きていた大型腕足類のコンキディアム、小型のエオスピリファー、そして数多くの三葉虫。それらの全ては今、ピンク色に輝やく土佐桜の愛称をいただいた石灰岩の中に、静かに埋もれているのである。磨き上げられた石材の表面に、そして石切場の割り石の中にも、4億年の夢からさめた化石たちは、その華やかだった歴史をありありと語ってくれるのである。


(保育社「原色化石図鑑」p.191より)

*1:この場合の英国というのは、いわゆるUKのほかにアイルランド共和国も含んでいるが