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メドウタウネラ・トレントネンシス

終りそうでなかなか終らないMF祭り。振り返ってみれば、年末あたりから毎週ぶっとおしでえんえんとやってるんじゃないか。商品のほうもだんだん高額化してきて、しょっぱなから手の出ないものも多い。まあそんなのはハイエンドのコレクターにまかせるとして、私としては手の届く範囲で気になるものが落せたら大満足だ。

さてメドウタウネラだが、これはいままで何度となく出品されてきて、そのつど手が届かなかった。今回ようやっと手に入れたのが下の画像のもの。


Meadowtownella trentonensis


これがグレードとしてどのあたりのものなのかよく分らないけれども、いろんな点からみてまずまず及第点を与えられる標本ではないかと思う。まず母岩と本体とのマッチングがいい。トゲの状態も、尾板あたりはやや怪しいが、わりあいシャープに保存されている。体節にみられる粒々も確認可能。頭鞍の瘤や眼も確認できるし、顆粒もそれらしく散らばっている。そしてこれが肝心なことだが、全体の雰囲気がどことなく殺気立っているのがいい。この鬼気のようなものが感じられないメドウタウネラはメドウタウネラにあらず、と個人的には思っている。

なぜそんな固定観念をもつに至ったかといえば、私が本種に注目するきっかけになった一枚の写真が鬼哭啾々たる雰囲気を漂わせていたからで、これが私のメドウタウネラ観を決定してしまった。下にその図を出す。コーネル大学出版局から出た「ニューヨークの三葉虫」という大判の本に載っているもの。



本種にかぎらず、この本の写真はいずれも鮮烈な印象を残すものが多く、それはおそらく標本の特殊な処理と、撮影技術の高さによるものだと思うが、いずれにしても、こんなすばらしい画像を見たあとでは、たいていの標本は物足りなく感じられてしまうだろう。


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上記の本には裏側からクリーニングした本種の写真も載っている。それをみると、肋棘は長いのと短いのとが上下二段に生えていて、頭部辺縁にも細かいトゲが並んでいる。こういった特徴から判断すると、本種はおそらくモロッコのデボン系から出るゴンドワナスピスと近縁なのではないかと思う。あと、ebay で何度となく出品されていて、そのつど逃しているオハイオプリマスピス。これも形態的には本種にきわめてよく似ている。

似ているとはいっても、これらにはさっき触れたような鬼気や殺気はみじんも感じられない。ことにプリマスピスなどは、保存のされ具合にもよるのだろうが、じつに優雅な趣を備えていて、殺気などといった下世話なものとはまるきり無縁だ。

いっぽう、同じくメドウタウネラの名で呼ばれる三葉虫ウェールズからも出ている。時代もオルドビス紀中期とほぼ同じだが、これはアメリカのものと比べるとだいぶ趣を異にしている。頭部のつくりも違えばトゲの生え方も違う。しかしなんといってもいちばんの相違点は、ウェールズ産のものには眼がないようにみえることだ。オドントプレウラ科で眼のない種類はほかにちょっと思いつかないので、その点だけでもウェールズ産のものは興味が深い。

今回の標本は、頭部の前に母岩が張り出していて、どうも輪郭がはっきりしないようなので、じゃまな部分を少し削り落してすっきりさせた。本体には傷ひとつつけていないので、元のプレパレーターも許してくれるだろう。


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メドウタウネラの元になったメドウタウン(Meadowtown)というのは、英国シュロップシャーにある小さい村で、かつては三葉虫の名産地だったらしい。現在ではSSSI指定でアマチュアの勝手な採取はできなくなっているようだ。