ストロマトポラ

ストロマトポラはストロマトライト、ことにモロッコ産のそれに形が似ているが、もちろんまったくの別物で、現在ではスポンジの仲間に分類されている生物の化石である。ゴトランドでは多産し、土地の人々から「猫のしゃれこうべ(CATSKULL)」と呼ばれているらしい。和名は層孔虫(stromato 層 + pora 孔)。


Stromatopora


シルル紀における重要な造礁生物のひとつで、その化石が硬くて緻密なため、ストロマトポラが主体になった礁石灰岩は他の石灰岩よりも風化しにくいという特質をもっているらしい。化石種はもっぱら浅海に棲んでいたが、これの末裔がいまでも生きていて、それらは水深100メートルより深いところにある真っ暗な洞穴や断崖に棲んでいるというから驚きだ。形ももちろん今ではずいぶん違っているだろう。

造礁生物はおおむねそうだが、本種も土砂に埋もれてしまうのを避けるために上へ上へと成長をつづけてゆく。それで結果的に、ヘルメットをいくつも重ねたような構造になる。ストロマトポラの本体すなわち軟体部は、そのヘルメットのいちばん上層にある小さい孔に入っている。孔とはべつに細かい条(astrorhizae)が走っていることもあるが、これは軟体部の導管の痕とのこと(ただし異説もある)。

この標本の薄汚くみえる部分は母岩の滓が付着しているわけではなく、それらはコケムシであったり、ルゴササンゴであったり、クサリサンゴであったりする。




このコケムシというやつはどこにでも現れる生き物で、なにか足場があるとすぐその上にのって群体を形成しはじめる。私が最初に買った、そしていまのところ唯一のコケムシの化石は、アメリカのケンタッキー州の上部オルドビス系から出たもので、Escharopora falciformis という名前のもの。falciformis とは「刀の形をした」の意。



ヘリオリテスの一種

ここ半年ほどのあいだにゴトランド産のサンゴ類の化石をいくつか手に入れたので、それらについて少し書いておこう。

まず最初に手に入れたのがヘリオリテス(Heliolites)というもの。これは「太陽の石」という意味で、日本では日石サンゴと呼ばれているらしい。保育社の「原色化石図鑑」には、「日石サンゴ類は日本のデボン系からも多産し、種類も多いけれども、あまり研究されていない」とある。ちなみにシルル・デボン紀のころの日本は、赤道のやや上あたりの、亜熱帯的な気候帯に属していた。




ヘリオリテスはゴトランドではもっともありふれた化石で、種類も100以上に及ぶという。やや青みをおびた灰白色の石灰岩(泥灰岩 marlstone というらしい)を母岩としていて、横には裏返しになった三葉虫の頭部の先らしきものが見える。

表面にある丸い穴がサンゴ虫の棲みかで、この内部には縦方向に隔壁(septa)が、横方向に床板(tabulae)が並んでいる。サンゴ虫は床板で仕切られたいちばん上の部分に棲み、放射状の触手を延ばして餌をとっていた。

サンゴというのは三葉虫アンモナイトと比べてその体制がわかりにくい。私もまだまだサンゴの実態がどんなものかわかっていない。とりあえず化石種についてだけでもだいたいのところは押さえておきたいと思って、小林貞一を著者代表とする朝倉書店の「古生物学」をひもといてみたが──

いやはや、とてもじゃないが一回読んだくらいでは理解するのはむりだ。記述が込み入っている以上に、執筆者(江口元起)の文章に癖があって、内容がすんなりと頭に入ってこないのである。

「(腔腸動物は)いずれも腔腸といわれる体腔と消化器その他の分化しない内腔を囲んで、内外2層の細胞列及び中膠質または間充組織である中間層よりなる体壁がある」(p.56)

いったい何がどうなっているのか、わかる方おられます?

そういっても、この超硬派の古生物学本はけっこう気に入っている。やっぱり「学」というからにはこのくらい四角四面じゃないとダメだよな、と思う。もともとは小林貞一の三葉虫についての記述が読みたくて買ったものだが、この時代(昭和29年)にすでにバージェス頁岩動物群に言及しているあたりはさすがだ。

化石のバロック

私は手に入れた化石や鉱物はむきだしで並べて楽しむタイプなので、陳列棚は必要不可欠なものなのだが、しかし棚という限られたスペースはすぐにいっぱいになってしまう。むりをして詰め込んでも、あまりごちゃごちゃしているのは自分の美意識に反するし、なによりも標本を傷めそうなのが怖い。そこで適当に間引いて、はみ出たものはべつの置場に落ち着くまでそのへんで待機させる、ということになる。

そんな自分にとって、下にあげる画像はある意味で衝撃的だった。というのも、私が「これ以上はむり」と思って引き返した地点を軽々と超え、さらに行けるところまで行きついた人間の営為がここには見て取れるからだ。



これは SBÍRKA FOSÍLIÍ というチェコのページで見つけたもので、下から順に古生代中生代新生代と年代ごとに標本が陳列されている(このぎゅう詰め状態を陳列と呼ぶとして)。当該ページへ行ってぜひ拡大写真を見て欲しいのだが、このコレクションを構成している標本はどれをとってもかなりのものだ。私はこれを見ながらふとヨーロッパにある骸骨寺のことを思い出した。そして日本人の美意識とはかけ離れた(相容れない?)バロックのことを考えた。

もちろんこういうものを悪趣味の一言で片付けるのは簡単だが、陳列派の自分としては、これらの画像から学び取るべきものは少なくないような気がする。

三葉虫の新分類について

2011年に出されたアドレインの新分類法。こちらのページにあがっているのがそれだが、これをざっと見て気づいたことを書いてみよう。

まず第一にアグノストゥス目が消えてしまったこと。これまでもアグノストゥス類を三葉虫に含めるべきかどうかについてはいろいろと意見があったようだが、やはり体の作りが決定的に異なっている以上、無理に三葉虫の仲間に押し込むべきでない、というのがアドレインの意見のようだ。

アグノストゥス目のもう一方の柱だったエオディスクス亜目はかろうじて三葉虫綱にとどまり、それ自体が目に昇格(?)してエオディスクス目(Eodiscida)となっている。

あと消えてしまった目としては、プティコパリア目があげられる。もともとこのプティコパリア目は雑多な種類の寄り合いみたいなグループで、これといって明確な特質があったわけでもなく、所属の不明なものをまとめて放り込んでいただけのものだから、その存在理由を科学的に検証されるとボロが出てくるのは致し方ない。所属不明のものをむりやりひとつにまとめるよりも、不明なものは不明にしておくほうが科学的には妥当である、という理由から(?)、かつてこの目に属していた多くの科が「未確定・目」(Order Uncertain)に編入されている。

新設されたものにアウラコプレウラ目、オレヌス目がある。またリカス目としてまとめられることの多かったリカス類とオドントプレウラ類はそれぞれ独立して一つの目を形成している。ハルペス目からはハルピデス科が外されて、単一のハルペス科を擁するのみとなった。

アドレインの新分類は、従来のものと比べても見やすく、分りやすいので、今後は徐々に広まっていくのではないかと思うが、やはりいちばんの難点は Uncertain の存在だろう。「未確定」というのはあってもいいと思うが、それがあまりに多くの科を擁するのでは都合がわるくはないか。この点はさらなる研究に俟つほかない。

上に貼りつけた原資料はおそらく見づらいと思うので、下に補足的なリストを出しておく。はてなブログの書式ではおそらくレイアウトが崩れてかえって見づらくなるだろうから、必要とあらばコピー&ペーストで対応してもらえればと思う。


Trilobita(三葉虫綱)


     * * *


Eodiscida(エオディスクス目)

!--- Calodiscidae(カロディスクス科)
!--- Eodiscidae(エオディスクス科)
!--- Hebediscidae(へべディスクス科)
!--- Tsunyidiscidae(ツニディスクス科)
!--- Weymouthiidae(ウェイマウシア科)
!--- Yukoniidae(ユコニデス科)


     * * *


Redlichiida(レドリキア目)

!- Olenellina(オレネルス亜目)

!-- Olenelloidea(オレネルス超科)
!--- Olenellidae(オレネルス科)
!--- Holmiidae(ホルミア科)

!-- Fallotaspidoidea(ファロタスピス超科)
!--- Archaeaspididae(アルケアスピス科)
!--- Fallotaspididae(ファロタスピス科)
!--- Judomiidae(ユドミア科)
!--- Neltneriidae(ネルトネリア科)
!--- Nevadiidae(ネヴァディア科)

!- Redlichiina(レドリキア亜目)

!-- Ellipsocephaloidea(エリプソケファルス超科)←プティコパリア亜目より移動
!--- Agraulidae(アグラウロス科)
!--- Bigotinidae(ビゴティナ科)
!--- Ellipsocephalidae(エリプソケファルス科)
!--- Estaingiidae(エスタンギア科)
!--- Palaeolenidae(パレオレヌス科)
!--- Yunnanocephalidae(ユンナノケファルス科)

!-- Emuelloidea(エムエラ超科)
!--- Emuellidae(エムエラ科)

!-- Paradoxidoidea(パラドキシデス超科)
!--- Centropleuridae(ケントロプレウラ科)
!--- Paradoxididae(パラドキシデス科)
!--- Xystriduridae(キシストリドゥラ科)

!-- Redlichioidea(レドリキア超科)
!--- Abadiellidae(アバディエラ科)
!--- Chengkouaspididae(チェンコウアスピス科)
!--- Dolerolenidae(ドレロレヌス科)
!--- Gigantopygidae(ギガントピグス科)
!--- Kueichowiidae(ケイチョウイア科)
!--- Mayiellidae(マイエラ科)
!--- Menneraspididae(メネラスピス科)
!--- Metadoxididae(メタドキシデス科)
!--- Redlichiidae(レドリキア科)
!--- Redlichinidae(レドリキナ科)
!--- Saukiandidae(サウキアンダ科)
!--- Yinitidae(イニテス科)


     * * *


Corynexochida(コリネキソクス目)

!- Corynexochina(コリネキソクス亜目)
!--- Chengkouiidae(チェンコウイア科)←ELL
!--- Corynexochidae(コリネキソクス科)
!--- Dinesidae(ディネスス科)
!--- Dolichometopidae(ドリコメトプス科)
!--- Dorypygidae(ドリピゲ科)
!--- Edelsteinaspididae(エデルスタイナスピス科)
!--- Jakutidae(ヤクトゥス科)
!--- Oryctocephalidae(オリクトケファルス科)
!--- Zacanthoididae(ザカントイデス科)

!- Illaenina(イレヌス亜目)
!--- Illaenidae(イレヌス科)
!--- Panderiidae(パンデリア科)
!--- Styginidae(スティギナ科)
!--- Tsinaniidae(ツィナニア科)

!- Leiostegiina(レイオステギウム亜目)
!--- Illaenuridae(イレヌルス科)
!--- Kaolishaniidae(カオリシャニア科)
!--- Leiostegiidae(レイオステギウム科)
!--- Shirakiellidae(シラキエラ科)


     * * *


Lichida(リカス目)

!--- Lichakephalidae(リカケファルス科)
!--- Lichidae(リカス科)


     * * *


Odontopleurida(オドントプレウラ目)

!--- Odontopleuridae(オドントプレウラ科)


     * * *


Phacopida(ファコプス目)

!- Phacopina(ファコプス亜目)

!-- Acastoidea(アカステ超科)
!--- Acastidae(アカステ科)
!--- Calmoniidae(カルモニア科)

!-- Dalmanitoidea(ダルマニテス超科)
!--- Dalmanitidae(ダルマニテス科)

!-- Phacopoidea(ファコプス超科)
!--- Phacopidae(ファコプス科)
!--- Pterygometopidae(プテリゴメトプス科)

!-- Uncertain(未確定・超科)
!--- Diaphanometopidae(ディアファノメトプス科)←ダルマニテス超科より移動
!--- Prosopiscidae(プロソピスクス科)←同上

!- Cheirurina(ケイルルス亜目)
!--- Cheiruridae(ケイルルス科)
!--- Encrinuridae(エンクリヌルス科)
!--- Pliomeridae(プリオメラ科)

!- Calymenina(カリメネ亜目)
!--- Bathycheilidae(バティケイルス科)
!--- Bavarillidae(バヴァリラ科)
!--- Calymenidae(カリメネ科)
!--- Homalonotidae(ホマロノトゥス科)
!--- Pharostomatidae(ファロストマ科)


     * * *


Proetida(プロエトゥス目)

!--- Proetidae(プロエトゥス科)
!--- Tropidocoryphidae(トロピドコリフェ科)


     * * *


Aulacopleurida(アウラコプレウラ目)新設。旧アウラコプレウラ超科を補充・拡張

!--- Alokistocaridae(アロキストカレ科)←PTY
!--- Aulacopleuridae(アウラコプレウラ科)
!--- Bathyuridae(バティウルス科)←BAT
!--- Brachymetopidae(ブラキメトプス科)
!--- Crepicephalidae(クレピケファルス科)←PTY
!--- Dimeropygidae(ディメロピゲ科)←BAT
!--- Ehmaniellidae(エーマニエラ科) 新設?
!--- Holotrachelidae(ホロトラケルス科)←BAT
!--- Hystricuridae(ヒストリクルス科)←BAT
!--- Marjumiidae(マルユミア科)←PTY
!--- Rorringtoniidae(ロリントニア科)
!--- Scharyiidae(スカリア科)←PRO
!--- Solenopleuridae(ソレノプレウラ科)←PTY
!--- Telephinidae(テレフィナ科)←BAT
!--- Tricrepicephalidae(トリクレピケファルス科)←PTY


     * * *


Asaphida(アサフス目)

!-- Asaphoidea(アサフス超科)
!--- Asaphidae(アサフス科)
!--- Ceratopygidae(ケラトピゲ科)

!-- Cyclopygoidea(キクロピゲ超科)
!--- Cyclopygidae(キクロピゲ科)
!--- Nileidae(ニレウス科)
!--- Taihungshaniidae(タイフンシャニア科)

!-- Trinucleoidea(トリヌクレウス超科)
!--- Alsataspididae(アルサタスピス科)
!--- Dionididae(ディオニデ科)
!--- Liostracinidae(リオストラキナ科)
!--- Raphiophoridae(ラフィオフォルス科)
!--- Trinucleidae(トリヌクレウス科)


     * * *


Olenida(オレヌス目)新設。旧オレヌス亜目を整理・拡張

!--- Andrarinidae(アンドラリナ科)←ANO
!--- Aphelaspididae(アフェラスピス科)←ANO
!--- Asaphiscidae(アサフィスクス科)←PTY
!--- Cedariidae(ケダリア科)←PTY
!--- Dokimokephalidae(ドキモケファルス科)←COR
!--- Eulomidae(エウロマ科)←PTY
!--- Idahoiidae(アイダホイア科)←REM
!--- Loganellidae(ロガネルス科)←DIK
!--- Olenidae(オレヌス科)
!--- Parabolinoididae(パラボリノイデス科)←ANO
!--- Pterocephaliidae(プテロケファリア科)←ANO
!--- Remopleurididae(レモプレウリデス科)←REM


     * * *


Harpida(ハルペス目)

!--- Harpetidae(ハルペス科)


     * * *


Uncertain(未確定・目)

!--- Acrocephalitidae(アクロケファリテス科)←PTY
!--- Aldonaiidae(アルドナイア科)←ELL
!--- Amgaspididae(アムガスピス科)←COR
!--- Anomocarellidae(アノモカレラ科)←ANO
!--- Anomocaridae(アノモカレ科)←ANO
!--- Antagmidae(アンタグムス科)←PTY
!--- Atopidae(アトプス科)←PTY
!--- Auritamidae(アウリタマ科)←REM
!--- Avoninidae(アヴォニナ科)←PTY
!--- Bolaspididae(ボラスピス科)←PTY
!--- Catillicephalidae(カティリケファラ科)←PTY
!--- Changshaniidae(チャンシャニア科)←PTY
!--- Cheilocephalidae(ケイロケファルス科)←LEI
!--- Conocoryphidae(コノコリフェ科)←PTY
!--- Damesellidae(ダメセラ科)←DAM
!--- Diceratocephalidae(ディケラトケファルス科)←PTY
!--- Dikelocephalidae(ディケロケファルス科)←DIK
!--- Ellipsocephaloididae(エリプソケファロイデス科)←OLE
!--- Elviniidae(エルヴィニア科)←PTY
!--- Eurekiidae(エウレキア科)←DIK
!--- Harpididae(ハルピデス科)←HAR
!--- Holocephalinidae(ホロケファリナ科)←PTY
!--- Hungaiidae(フンガイア科)←REM
!--- Ignotogregatidae(イグノトグレガトゥス科)←PTY
!--- Inouyiidae(イノウイア科)←PTY
!--- Isocolidae(イソコルス科)←PTY
!--- Ityophoridae(イティオフォルス科)←PTY
!--- Jamrogiidae(ヤムロギア科)新設
!--- Kingstoniidae(キングストニア科)←PTY
!--- Lisaniidae(リサニア科)←TRI
!--- Llanoaspididae(ラノアスピス科)←PTY
!--- Lonchocephalidae(ロンコケファルス科)←PTY
!--- Lorenzellidae(ロレンツェラ科)←PTY
!--- Mapaniidae(マパニア科)←PTY
!--- Menomoniidae(メノモニア科)←PTY
!--- Missisquoiidae(ミシスコイア科)←IS
!--- Monkaspididae(モンカスピス科)←ASA
!--- Namanoiidae(ナマノイア科)←IS
!--- Nepeidae(ネペア科)←PTY
!--- Norwoodiidae(ノルウッディア科)←PTY
!--- Onchonotopsidae(オンコノトプシス科)←PTY
!--- Papyriaspididae(パピリアスピス科)←PTY
!--- Phylacteridae(フィラクテルス科)←PTY
!--- Plethopeltidae(プレトペルティス科)←PTY
!--- Polycyrtaspididae(ポリキルタスピス科)←IS
!--- Proasaphiscidae(プロアサフィスクス科)←PTY
!--- Ptychaspididae(プティカスピス科)←DIK
!--- Ptychopariidae(プティコパリア科)←PTY
!--- Raymondinidae(ライモンディナ科)←BAT
!--- Rhyssometopidae(リソメトプス科)←ASA
!--- Sarkiidae(サルキア科)←IS
!--- Shirakiellidae(シラキエラ科)重複? レイオステギウム亜目に既出
!--- Shumardiidae(シュマルディア科)←PTY
!--- Sunaspididae(スナスピス科)←IS
!--- Utiidae(ウティア科)←PTY
!--- Wuaniidae(ウアニア科)←PTY


(略号)
ELL:エリプソケファルス超科より
PTY:プティコパリア超科より
BAT:プロエトゥス亜目バティウルス超科より
PRO:プロエトゥス亜目プロエトゥス超科より
ANO:アサフス目アノモカレ超科より
COR:コリネキソクス超科より
REM:アサフス目レモプレウリデス超科より
LEI:コリネキソクス目レイオステギウム超科より
DAM:リカス目ダメセラ超科より
DIK:アサフス目ディケロケファルス超科より
OLE:プティコパリア目オレヌス超科より
HAR:ハルペス超科より
TRI:アサフス目トリヌクレウス超科より
IS :Incertae Sedis(不定科) より
ASA:アサフス目より

ケラトヌルスの一種

ディクラヌルスのあとはこれしかないでしょ、というわけで買ったのが本種。アイデンティティが揺らぐほど高い買い物だったが、これにはミラスピスの後押しもあった。というのも、ケラトヌルスはいろんな点でじつによくミラスピスに似ていて、ほとんど直系の子孫かと思うほどなのだ。ミラスピスはあまりいい標本が手に入らなかったが、それだけに不満がたまっていたらしく、今回ケラトヌルスが出ているのを見て一も二もなく飛びついてしまった。ボヘミアの仇をオクラホマで討つ(?)というほど執念深くはないつもりだが……


Ceratonurus sp.


もちろん似ているといっても別種だから当然違いはある。それらをあげてみると──

と思ったが、書いてもあまり意味がなさそうだからやめた。その気になればすぐに調べられるしね。それより両者のいちばん気になる違いについて書こう。

ケラトヌルスはミラスピスの特徴をほとんどすべて承け継いでいるが、ひとつだけ、後者にあって前者にないのが各胸節のサブの棘だ。これはメインの長い棘の前方についている短い棘で、細かいヒゲが生えている。ミラスピスの標本にはこれがはっきり認められるが、ケラトヌルスではこれが見えない。というか、この部分は剖出されずに母石に埋まったままになっている。かろうじて根っこの部分が確認できるのみだ。

これはケラトヌルスにかぎらず、ブラックキャットマウンテンで産出する他のトゲトゲ種についてもいえることで、ディクラヌルスもレトプルシア(Laethoprusia)もサブの棘は剖出されないままになっている。これはいったいどういうわけだろうか。御大(ボブ・キャロル)に訊ねてみると、どうもこういう答えが返ってくるようだ。

「サブの棘ですか。それはあることはありますよ。私がこの目で母岩中に確認していますからね。ただこれをクリーニングするとなると、なかなかやっかいでね。メインの棘のほうを台無しにする覚悟ならできないこともないが、私はそういうことはやらない主義なんです。ただでさえ貴重な原石を無駄にはしたくないんでね」

ボブ・キャロルにできないのなら、他のプレパレーターにもまず無理だろう。サブの棘は潜勢としてのみ存在する、と思うほかない。


     * * *


ケラトヌルスという名称の由来について書いておくと──

1883年に、オットマル・ノヴァーク(バランドの唯一の直系の弟子)がデボン紀ボヘミア産のオドントプレウラ科の新種をアキダスピス・クレイチイ(Acidaspis krejcii)として記載。

1949年に、プラントルとプルシビルが同種をケラトヌルス・クレイチイとして再記載。


Ceratonurus krejcii(8番目の画像。プラハ国立博物館にある頭蓋の標本)


ケラトヌルスという名前がもとはボヘミア種につけられたというのは私には意外であるとともにうれしいことだ。なんといっても私の本拠地はボヘミアにあるので、オクラホマはその出張所といった位置づけなのである。

ボヘミアではクレイチイ以外にも何種類かケラトヌルスが見つかっているようだが、いずれも頭部の部分化石のみで、全身揃ったのは出ていないようだ。ドイツの下部デボン系から出る Ceratonurus selcanus (Roemer) などもおそらく同様。

これら部分化石のケラトヌルスにはほとんどすべて種名がついているが、全身揃っているオクラホマ産やモロッコ産のケラトヌルスにはどういうわけか種名がついていない。研究よりも先に商品として世に出てしまったからだろうか? 

いずれにしても、「我輩はケラトヌルスである。名前はまだない」では落ち着きがわるいので、早いところなにか名前をつけてやってほしいと思う。私が好きなのは insignis(抜きん出た、極めつきの)とかそういったものだが、こんなご大層な名前はいまどき流行らないのかもしれない。

ケラトヌルスという属名については、その語源がはっきりしないが、ceras(角)の複数属格 ceraton に urus をつけたものではないかと思う。


     * * *


ディクラヌルスとケラトヌルスが揃ったことで、私のオクラホマ三葉虫探求はとりあえず終ってしまった。そのほかのものは「どうしても欲しい」というほどではない。とはいうものの、ジョージ・ハンセンの「ブラックキャットマウンテンの三葉虫」を読むと、一般種から超稀少種まで、この地のものすべてに愛着が湧いてくる。この本はそれほど魅力的で、なによりも全体がアマチュア精神で貫かれているのがすばらしい(専門家でないということと、愛好家であるという二重の意味で)。

「露頭で見つかる化石の大部分は脱皮殻で、完全体などはめったに出やしない。そういっても、部分化石だって捨てたものじゃない。げんに我が家の本棚や窓台には、こういった半端ものの化石がいっぱい飾ってあるよ」

こういうさりげない一節にシンパシーをおぼえるのは私だけだろうか。

ブラックキャットマウンテンというのはオクラホマのデボン系、ハラガン層とボア・ダルク層を含む一帯のことだが、オクラホマにはそれ以外にヘンリーハウス層というシルル紀の地層があって、ここからはカリメネやフラギスクトゥムが出るらしい。またブロマイド層(オルドビス系)からはロンコドマスほか各種の三葉虫が出るようだ。そのほかにも私の知らないなんとか累層というのがオクラホマには山ほどあって、もちろんすべてが化石を産するわけではないけれども、それでもオクラホマ全体の化石動物相はかなりの偉観を呈するのではないかと思われる。