グリーノプス・ウィデレンシス
「ニューヨークの三葉虫*1」という大判の本を飾る(?)何種類ものグリーノプス。その魅力的な画像を眺めながら、自分もいつかはニューヨークのグリーノプスを、と思っていたが、なかなかこれといった標本が見つからない。上記の本のすばらしい画像を見ているだけに、中途半端なものは買う気がしないのである。これはもうだめかな、と諦めかけたときにふと目についたのがカナダ産のグリーノプスだった。
カナダ、とくにオンタリオ州の南のほうでは、オルドビス紀の三葉虫がよく産出するようだが、デボン紀のものはどうか。AMNHのページを見ても、載っているのはグリーノプスとファコプスだけで、最後のカリメネといわれる Calymene platys を加えても三種類にすぎない。これらのうち、ファコプスとカリメネはかなりの稀産のようなので、実質的にはカナダのデボン紀の三葉虫といえば、グリーノプス一種類で代表させているのが現状ではないだろうか。
まあそれはともかくとして、ニューヨーク産が手に入らない以上、カナダ産につくよりほかない。なんといってもオンタリオは五大湖をはさんでニューヨークの反対側にあるので、地層的にはいちばん近いと思われるからだ。画像で見るかぎり、カナダ産のグリーノプスにはニューヨーク産ほどのオーラは感じられないが、それももしかしたら私がかってに作り上げた幻想かもしれないではないか。
というわけで、とりあえず手に入れたのが下の画像のもの。大きさは27㎜で、右の頬棘は前所有者が逆さまにつけていたのを正しい向きにつけかえた。
買ったときは Greenops boothi という名前がついていたが、これはおそらく妥当でない。カナダ産のグリーノプスが G. boothi にきわめてよく似ていて、ほぼ同種であるとしても、細かく見ていけばやはり違いはある。数あるグリーノプスのうちでも、boothi といえば模式種なので、自分としてはやはりそれなりの敬意は払っておきたい。そして、カナダ産のは産地(Widder)の名前をとって widderensis としておくのがいちばん無難で分りやすいと思う。
ニューヨーク産のグリーノプス類については、上記のコーネル大の本(pp.129 - 130)に相違点が細かく書かれているから、興味のある人はそちらに就かれたい。ここではごくおおざっぱにその要点だけ書いておこう。
まずグリーノプスとベラカートライティア(Bellacartwrightia)の見分け方。
→中軸に棘が並んでいればベラカートライティア、なければグリーノプス。
ベラカートライティアには5種類、グリーノプスには3種類ある。前者はさておくとして、後者の見分け方を書いておくと──
→額環に目立った突起があれば G. boothi
→額環に目立った突起がなく、かつ尾板まわりのトゲが尖っていたら G. barberi
→額環に目立った突起がなく、かつ尾板まわりのトゲが尖っていなければ G. grabaui
こんなところでどうだろう。
*1:Trilobites of New York, Th. E. Whiteley et al., Cornell Univ. Press