シュードキベレ・レムレイ

レムレオプス・レムレイ(Lemureops lemurei)という名前で出ていたもの。これはシュードキベレの一種で、おそらくシュードキベレ・レムレイと呼ばれているのと同一種だと思われる。


Pseudocybele lemurei


シュードキベレの仲間はわりあい見た目の違いがはっきりしていて、混乱をまねくことは少ないと思われるが、市場に出ている標本にはちゃんとした名前がついていないことが多い。MFのカタログにはどう見てもシュードキベレ・アルティナスタと思しいのがレムレオプス・レムレイと表記されているし、あるいは某コレクターのページには本種すなわちシュードキベレ・レムレイらしきものがシュードキベレ・ナスタの名前で出ていて、わけの分からないことになっている。

ここでいちおうまとめておくと、

1.シュードキベレ・ナスタ
大きさ2cm以下。眼は小さく寄り目。鼻先に突起がある。

2.シュードキベレ・アルティナスタ
大きさ2cm以上。眼は小さく寄り目。鼻先に突起がある。

要するにナスタとアルティナスタは大きさの違いでしかない。

3.シュードキベレ・レムレイ
大きさ2cm以下。眼は大きく飛び出ていて、やや離れている。鼻先の突起にギザギザがついている。

こんなところでどうだろう。違う、そうじゃないという意見があれば教えてください。


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今回の標本はていねいにクリーニングしてあるが、どういうわけか顔の前方に母岩が残してあって、前からみるとこれがじゃまで顔が見えない。それに鼻先の突起も片方だけ剖出され、左の頬は母岩に埋もれたままだ。こういう仕事はどうなのか。職人としては最後まで手を抜かずに作業すべきではないのか。

しかたがないので自分でまたしても母岩を削ることにする。石質が柔らかいので、カッターと丸やすりでじゅうぶんだ。

上にあげた三点を解決して、なんとか愛着のもてる標本になった。こういう作業をせず、そのままにしておく人も多いと思うが、私はごめんだね。中途半端なままでは愛着がもてないし、愛着のもてない標本は私にはゴミと選ぶところがない。


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本種はユタのフィルモア層(オルドビス紀前期)から出たもので、前に買ったシュードキベレ・ナスタは隣のネバダ州のナインマイル頁岩の産だ。このふたつの母岩は石質がじつによく似ていて、素人目には区別がつかない。

Pseudocybele lemurei & Pseudocybele nasuta


かたや15mm、かたや18mmと非常に小さいが、見慣れるとその小ささがあまり気にならなくなり、そこそこの大きさのものと比べてもけっして引けをとらない存在感を主張しはじめるのはふしぎだ。ナスタのほうはどこから見てもかわいいが、レムレイのほうは鼻先の突起が湾曲して「への字」になっているので、プンスカと怒ったような顔つきにみえる。




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前にも書いたが、シュードキベレならぬキベレという種類があって、これは以前から欲しいと思い、目当てのものもほぼ決まっていた。ところがその貯金(?)がMF祭りで飛んでしまい、とうぶん諦めなくてはならなくなった。まああれもこれもというわけにはいかないし、もともとコレクションには不向きな人間なので、今年いっぱいはロシア産には手を出さないでおこう。三葉虫好きにはわかると思うが、これはけっこうきついことですよ。

2017年に目当てのキベレはまだ残っているだろうか?

キファスピス・ケラトフタルマ

記念すべきアイフェル産の第一号。キファスピスという種類はあまり好みではないのだが、まあ初回だし、様子見にはいいんじゃないか、ということで買ってみた。灰白色の母岩に淡いベージュ色で保存されていて、注意深く眺めればその保存状態はけっしてわるくない。

Cyphaspis ceratophthalma


とはいうものの、ぱっと見た感じではやはり干からびた標本という印象は否めない。立体感を保ちながらも全体が斜め方向に圧されているので、前から見ると45度にひしゃげている。あとから来たアイフェル2号(ゲーソプス)と比べると、あらゆる点で対照的で、とても同じ産地から出たものだとは思えない。

見る人によっては価値のない、お粗末な標本に思われるかもしれないが、私にはアイフェル2号と比べてもそれほど遜色があるとは思えないのである。というか、ここまで共通点のない標本の場合、ふたつ並べて優劣をつけること自体が無意味なのだ。「みんなちがって、みんないい」というのはこういうときに使うべき言葉ではないかと思う。

図鑑やネットを見ると、本種は黒っぽい色で保存されることが多いようだが、信山社の「世界の三葉虫」に出ている画像のものは白っぽくて、たぶん私の買ったのと同じタイプだ。



同文書院の「化石探検」という本に、「順序なく並んだ肋骨に似た姿を岩の上に止めている三葉虫」という文がある。書いているのは福田芳生氏だが、たしかに白っぽく保存された三葉虫は白骨に似ている。


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アイフェル(ゲース)産の三葉虫は、本種とゲーソプス・シュロートハイミ、それにゲラストス・クヴィエリの三つが代表種で、これだけ揃えればだいたい格好はつく。ゲラストスはプロエトゥスの一種だから、これを手に入れたら念願のプロエトゥス類が同時に手に入ることになる。

ゲラストスといえばモロッコ産が一般的で、状態もよく値段も安い。そういうものには目もくれず、より状態がわるくて値段も高いアイフェル産を求めるのはどう考えてもまともではないが、蒐集という趣味はどうもこんなふうに脇道へそれていく傾向があるようだ。

ケラウルス・プレウレキサンテムス

今年最初のヤフオクでの買い物がこれだが、現物を見たときは驚いた。これがあのケラウルスだろうか。まるでパラドキシデスのような凄みではないか。それにこの格調の高さはどうだろう。雰囲気だけでいえば、去年の夏岐阜で見たアンフィリカスに匹敵する。うーむ、こんなものを私がもっていていいんだろうか。これはむしろ博物館にでも飾っておくべきものではないか。いや、じっさい私の家にはこれを置くべき場所がない。どこに置いてもまわりと調和しないのである。しかたがないのでとりあえず単独で机の上に置くことにした。さいわいトゲトゲ種ではないのであまり保管に神経質になる必要もない。


Ceraurus pleurexanthemus
Upper Ordovician
Walcott-Rust Quarry


これまでB級品や部分化石が主体だった自分のコレクションにこういうものが加わって、さてこの先いったいどうなるのか。いや、心配しなくても、これをきっかけにコレクションのレベルがいきなり上がるなんてことは考えられない。だいいちそんなことは私の懐具合が許さない。私はこれまでどおり安価な標本中心の、片隅の化石愛好家にとどまるだろう。

世の中には極上の標本しか集めない人がいる。そのコレクションは当然ながらすばらしい。しかしもし自分がそういうコレクションをもっていたとしたらどうだろう。たぶん息苦しくてやりきれないのではないか。濁った水にしか棲めない魚がいるように、私も下世話な環境でないと息がつけないのだ。

というわけで、たまの贅沢は、ともすれば惰性に流れがちな蒐集という趣味に活を入れてくれるスパイスのようなものだと思うことにしよう。

ストロマトポラ

ストロマトポラはストロマトライト、ことにモロッコ産のそれに形が似ているが、もちろんまったくの別物で、現在ではスポンジの仲間に分類されている生物の化石である。ゴトランドでは多産し、土地の人々から「猫のしゃれこうべ(CATSKULL)」と呼ばれているらしい。和名は層孔虫(stromato 層 + pora 孔)。


Stromatopora


シルル紀における重要な造礁生物のひとつで、その化石が硬くて緻密なため、ストロマトポラが主体になった礁石灰岩は他の石灰岩よりも風化しにくいという特質をもっているらしい。化石種はもっぱら浅海に棲んでいたが、これの末裔がいまでも生きていて、それらは水深100メートルより深いところにある真っ暗な洞穴や断崖に棲んでいるというから驚きだ。形ももちろん今ではずいぶん違っているだろう。

造礁生物はおおむねそうだが、本種も土砂に埋もれてしまうのを避けるために上へ上へと成長をつづけてゆく。それで結果的に、ヘルメットをいくつも重ねたような構造になる。ストロマトポラの本体すなわち軟体部は、そのヘルメットのいちばん上層にある小さい孔に入っている。孔とはべつに細かい条(astrorhizae)が走っていることもあるが、これは軟体部の導管の痕とのこと(ただし異説もある)。

この標本の薄汚くみえる部分は母岩の滓が付着しているわけではなく、それらはコケムシであったり、ルゴササンゴであったり、クサリサンゴであったりする。




このコケムシというやつはどこにでも現れる生き物で、なにか足場があるとすぐその上にのって群体を形成しはじめる。私が最初に買った、そしていまのところ唯一のコケムシの化石は、アメリカのケンタッキー州の上部オルドビス系から出たもので、Escharopora falciformis という名前のもの。falciformis とは「刀の形をした」の意。



ヘリオリテスの一種

ここ半年ほどのあいだにゴトランド産のサンゴ類の化石をいくつか手に入れたので、それらについて少し書いておこう。

まず最初に手に入れたのがヘリオリテス(Heliolites)というもの。これは「太陽の石」という意味で、日本では日石サンゴと呼ばれているらしい。保育社の「原色化石図鑑」には、「日石サンゴ類は日本のデボン系からも多産し、種類も多いけれども、あまり研究されていない」とある。ちなみにシルル・デボン紀のころの日本は、赤道のやや上あたりの、亜熱帯的な気候帯に属していた。




ヘリオリテスはゴトランドではもっともありふれた化石で、種類も100以上に及ぶという。やや青みをおびた灰白色の石灰岩(泥灰岩 marlstone というらしい)を母岩としていて、横には裏返しになった三葉虫の頭部の先らしきものが見える。

表面にある丸い穴がサンゴ虫の棲みかで、この内部には縦方向に隔壁(septa)が、横方向に床板(tabulae)が並んでいる。サンゴ虫は床板で仕切られたいちばん上の部分に棲み、放射状の触手を延ばして餌をとっていた。

サンゴというのは三葉虫アンモナイトと比べてその体制がわかりにくい。私もまだまだサンゴの実態がどんなものかわかっていない。とりあえず化石種についてだけでもだいたいのところは押さえておきたいと思って、小林貞一を著者代表とする朝倉書店の「古生物学」をひもといてみたが──

いやはや、とてもじゃないが一回読んだくらいでは理解するのはむりだ。記述が込み入っている以上に、執筆者(江口元起)の文章に癖があって、内容がすんなりと頭に入ってこないのである。

「(腔腸動物は)いずれも腔腸といわれる体腔と消化器その他の分化しない内腔を囲んで、内外2層の細胞列及び中膠質または間充組織である中間層よりなる体壁がある」(p.56)

いったい何がどうなっているのか、わかる方おられます?

そういっても、この超硬派の古生物学本はけっこう気に入っている。やっぱり「学」というからにはこのくらい四角四面じゃないとダメだよな、と思う。もともとは小林貞一の三葉虫についての記述が読みたくて買ったものだが、この時代(昭和29年)にすでにバージェス頁岩動物群に言及しているあたりはさすがだ。